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アメリカ ジャーナリズム

トランプ暴露本『炎と怒り』がジャーナリズムに突きつける苦い問い

大事なものは「真実」ではなく…
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反撃ののろし?

早いものでトランプ大統領が誕生してから1年が経過した。

そのアメリカでは今年2018年、中間選挙(midterm election)が行われる。

「中間」とは、前回の大統領選と次回の大統領選との「間」という意味であり、連邦議会のうち下院議員の全員(435議席)と上院議員の3分の1(33議席)が改選され、36の州で知事選も行われる。

4年に1度の大統領選が、全米を対象としているがゆえに、未来に向けた理念を選ぶ性格が強いのに対して、中間選挙では、地域ごとの現在の対立を調整するための現実的な解決力が重視される。そのため大統領選ほど華々しく人びとの興味を引くものではない。

だが今年は少しばかり様子が異なっている。トランプ大統領に対する牽制がどこまで実現できるか、に関心が集まりつつあるからだ。

そうした動きは、年明け早々発売され、良くも悪くも話題をさらっているマイケル・ウォルフによる“Fire & Fury”(邦訳『炎と怒り』2月下旬刊行予定)によって、より高まっている。

炎と怒り

一般論として中間選挙では、直近の大統領選の反省から、現職の大統領の所属する政党とは異なる政党が票を伸ばしやすい。つまり今年であれば、トランプ大統領の属する共和党ではなく、民主党に勢いが戻るのではないか、ということだ。

ともすれば、大統領選が全米を挙げた祭りとして高揚感の中で行われるのに対して、中間選挙では、地元政治の具体的解決策への関心から、より冷めた目で政治を見ることになり、バランス感覚とでも呼ぶべき心理が働くためだ。

たとえば、1992年の大統領選で民主党のビル・クリントンが勝利した後、1994年の中間選挙では共和党が下院で多数派を確保した。2004年大統領選で共和党のジョージ・W・ブッシュが再選された後の2006年の中間選挙では、民主党が上院・下院の多数派を取り戻した。2008年には初の非白人大統領として民主党のバラク・オバマが選出されたが、2010年の中間選挙では共和党が下院で多数派に返り咲いた。

このように大勝した選挙の後には、その揺り戻しが生じるのがアメリカのパタンである。

その上で、今回の中間選挙に注目が集まるのは、仮に連邦議会の上院、下院で、民主党が過半数の議席を獲得し多数派に転じた場合、状況いかんでは、トランプ大統領に対する弾劾に乗り出すのではないか、とも言われているからだ。少なくともそう主張することで、民主党は勢いを得ている。

実際、いわゆる反トランプの気運は、2017年の暮れにも見られたことで、たとえば12月に行われたアラバマ州の上院議員の補欠選挙では、深南部(ディープサウス)のレッドステイト(共和党州)であるにも関わらず、民主党のダグ・ジョーンズが僅差ながら勝利を収めるという番狂わせも生じた。アラバマで民主党の上院議員が選出されるのは、実に25年ぶりのことだった。

 

そうした勢いをさらに加速させるものとして登場したのがトランプ政権の暴露本“Fire & Fury”だった。1月5日に発売されて以来、あっという間にベストセラーの仲間入りを果たしている。

「まさか勝っちゃうとは…」

“Fire & Fury”の雰囲気を掴むには、第1章を掲載したニューヨーク・マガジンのイラスト(http://nymag.com/daily/intelligencer/2018/01/michael-wolff-fire-and-fury-book-donald-trump.html)を見るのが早い。

Illustrations by Jeffrey Smith(New York Magazineより

そもそも第1章を発売前に公開し人びとの関心を集めるのは、ウェブ以後の現代では全く普通のことであり、その内容に対して、書かれた当人のトランプから反応を引き出すのもソーシャルメディア時代の常套手段。いわば一種の炎上商法であり、ひとたび火が着けば、その火に合わせて人びとの様々な思惑がついて回り、あっという間に誰もが知るところとなる。

では、その火種は何だったのか。

先の記事のタイトルに“Donald Trump Didn’t Want to Be President”とあるように、ウォルフによれば、トランプ自身、まさか本戦で勝つとは思っていなかった。メラニア夫人に至っては、当選の報にむしろ困惑し、涙まで流したという。

立候補した以上、さすがに勝つ気くらいはあったのだろうと思っていたのだが、どうやらそうでもなかったらしい。

となると大統領選自体が、まさに有権者による選挙全体の空気を読んだ「美人投票」と化していたことになる。トランプは、誰もが投票したくなるようなその美人モデルを演じたにすぎない。

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