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「婚活」を焦るあまり人生を読み間違えた女の悲劇

育てられない母親たち【14】
石井 光太 プロフィール

婚活優先し娘が邪魔に

萌に残されたのは、娘とマンションのローンだった。萌は40代になっていた。

職場復帰してからが更に大変だった。保育園のお迎えがあるために17時前に会社を出なければならず、娘が喘息持ちで発作を起こす度に会社を休まなければならない。未婚で出産をした彼女に向けられる目は冷たかった。

不倫の子を産んで捨てられた女。それが彼女に注がれる視線だったのだ。

――このまま負け組のシングルマザーとして人生を終わらせたくない。

萌はなんとか尚貴よりいい男性を見つけて結婚しようとした。そうでなければ、自分は人生の敗者となってしまうという危機感があった。

彼女は婚活サイトを駆使して、年収の高い男性を見つけては片っ端から関係を結ぶようになった。同時にいくつかのサイトに入会し、複数の男性と付き合って結婚を求めたこともある。

だが、どの男性も萌と男女の関係にはなるものの、結婚しようとはしなかった。彼女の焦りがプレッシャーだったということもあるのだろう。それに、幼い子供がいて、マンションのローンまで抱えている40代の女性を受け入れるのは簡単なことではなかったのかもしれない。

萌は何度も付き合ってはフラれることをくり返すうちに、次第に娘のことを邪魔だと思うようになっていた。

この子がいるから私は捨てられるんだ。この子さえいなければ、私は幸せな人生を歩めるはずなんだ。

そんなふうに考えるようになったのだ。

それから萌は、娘の一挙手一投足を疎ましく感じ、泣いたり、おもらしをしたりする度に、必要以上に罵った。

「なんで言うことを聞かないの! 私に対するあてつけのつもり?」

喘息の発作ですら、この子は嫌がらせをするためにわざと発作を起こしているのだと思って無視することもあった。

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また、恋人ができると、家に帰らないことが増えた。コンビニのパンを机に置いておくだけで、土日は相手の家やホテルに泊まるのだ。

最初に家庭の異変に感づいたのは、保育園だった。娘が保育園を欠席する日が増え、親ともなかなか連絡が取れない。たまにやってきても、娘がひどく痩せていたり、衣服が何日も変えられていなかったりする。

保育園側は度々萌に事情を問いただした。その度に、彼女はこう言い訳した。

「仕事が忙しくてちょっと育児がおろそかになっただけです。もう少しで落ち着く予定です」

数ヵ月しても、状態は一向に変わらない。むしろ欠席の日数だけが増えていく。

保育園が心配して支援団体などを紹介しようとしたところ、萌は頑なに拒んだ上に、保育園を辞めさせると言い出した。逃げようとしているのが明らかだった。辞められれば、母子が孤立する。保育園はやむなく市に通報することにした。

市の職員が、保育園に代わって対応にあたった。職員が家を訪れたところ、当初、萌は娘をちゃんと育てていると言い張った。だが、何度か面会をくり返すと、萌は急に泣きくずれて叫んだ。

 

「私はだまされて娘を産んだんです! そして娘は私の人生の邪魔ばかりする。愛せない。別々に生きたいんです!」

ここ数ヵ月萌はかなり精神不安になっており、会社も休むことが増えていたようだった。病院からはうつ病という診断も下っていた。何もかもがうまくいかないことから、精神を病んでしまったのかもしれない。

市の職員は療養して、福祉の支援を受けて娘を育てていこうと提案した。だが、萌は断固として言った。

「今は子供の顔を見たくありません。頭がおかしくなりそう。施設で預かって!」

何度説得しても、娘を施設に預けてくれの一点張り。やむを得ず、萌の意を汲み取ってしばらく施設に預けることになった。