Photo by iStock
週刊現代

作家・山内マリコが人生に悩んでいた時に出会った「一生モノの本」

悩みが深いときほど良い読書ができる
このエントリーをはてなブックマークに追加

感覚にフィットした名作

自分が活字を必要としている人間なんだと自覚したのは、10代はじめの頃でした。子どものころはマンガ一辺倒だったのに、思春期に入るとそれだけでは満たされなくなり、自分で小説を買うようになりました。

当時は、小説を1冊通読することが、小さな自信になるような年頃で。そのうち「私にも書けそうだ」となんとなく思ったのが、小説家への第一歩だったと思います。

一方で映画も大好きで、大学は映像学科に進学しました。ただ、映画って基本的に大勢で作るものなんですけど、私、集団行動が苦手で(笑)。だんだん小説への表現欲求が勝っていきました。

今回挙げた10冊はほとんどが、人生に悩んでいた10代20代に読んだ本ばかりです。悩みが深いときほど良い読書ができるので、そのときにめぐり合えた本と感動は、一生ものですね。

1位の『カウガール・ブルース』は、先にガス・ヴァン・サントが監督した映画の方を観ていました。生まれつき親指の大きい女の子がヒッチハイカーになって、牧場でカウガールたちと暮らすようになる物語。変な映画だけど、不思議に惹かれる作品でした。

原作があることを知って読んでみると、これが大傑作! 刊行されたのは1976年で、カウンターカルチャーの色が濃い、壮大なストーリーです。

フェミニズムと文明批判が渾然一体となっていて、文体も驚くほどポップ。圧倒されました。「女が男よりも長く生きるのは、本当に生きていなかったからよ」なんて箴言がさらりと出てくる。文明が発達することで置き去りにされてしまう精神性なんかも、小気味よく語っています。

とても示唆に富んで深遠なのに、語り口はあくまで軽やかなのもぐっときました。生まれてはじめて、「自分の感覚にフィットするな」と感じたことを覚えています。

デビュー作の村上春樹

2位の『リヴァイアサン』は、私が小説家になりたいと思い、25歳で上京し文学賞を受賞したものの、なかなかデビューできなかった暗黒時代に読んだ本。この作品もかなり複雑な物語ですね。

ポール・オースター本人を思わせる語り手が、同業者の小説家サックスと知り合い、彼の才能におののきます。けれどサックスはその才能ゆえ、人生を制御しきれなくなり、だんだんと壊れていってしまう。

当時のヒッピー世代の政治的な敗北なども暗に描かれていますが、この小説のテーマを突き詰めると、友情なんですよね。それが明かされた瞬間、嗚咽してしまった。私もずっと友情を、とりわけ女性同士の友情をテーマに作品を書きたいと思っていたので、すごく勇気づけられました。

 

読むのも書くのも短編が好きなんですけど、3位のミランダ・ジュライの短編小説集は、とにかく粒ぞろい。一語一語が詩みたいというか、言葉に新しい感性が宿っています。

「こんなこと書いたら変な人って思われるかも」と、普通なら隠してしまう部分が、あえてどんどん書かれ、人間のみっともない部分が惜しげもなく露にされます。それがとてもチャーミングなんです。

記事をツイート 記事をシェア 記事をブックマーク