〔PHOTO〕iStock
メディア・マスコミ オリンピック 不正・事件・犯罪 日本

前代未聞のドーピング事件から考える「勝利の呪い」と依存症の恐怖

オリンピックには魔物がつきもの?

ライバルに禁止薬物を飲ませ…

ピーター・シェーファーの戯曲『アマデウス』は、落ち目の宮廷音楽家サリエリが、突如目の前に現れた天才音楽家アマデウス・モーツァルトの才能に嫉妬し、彼に毒を盛るという話である。

舞台でも映画でも大ヒットしたこの名作を彷彿とさせるような事件が発覚した。

1月9日、日本カヌー連盟は、鈴木康大選手が若手のライバル小松正治選手のドリンクに、故意に禁止薬物を混入させたことを発表した。連盟は、鈴木選手を8年間の資格停止処分とし、理事会などで除名を提案するという。

昨年8月にあった日本選手権で、小松選手は200メートルカヤック・シングルで優勝を果たしたが、レース後のドーピング検査で「陽性」となり、4年間の資格停止処分を言い渡されていた(鈴木選手は同種目5位だった)。

しかし、小松選手が禁止薬物の摂取を否定したことから、連盟は調査に動き、鈴木選手の「自白」によって事が明るみに出たという経緯である。

これによって、東京オリンピックが絶望視されていた小松選手の疑いが晴れ、処分も取り消されることとなった。

日本カヌー連盟公式サイトより

鈴木選手はそれ以前にも、小松選手を含むライバルのパドルを盗んだり、練習で使うGPSシステムの器具を盗んだりといった数々の妨害行為を繰り返していた。そのときも彼の仕業であることが発覚し、反省文を出していた。

しかし、本人は反省するどころか、ますますエスカレートして、今回の前代未聞の事件を起こしてしまった。本人は「若手が台頭してきて競技会で勝てなくなってきた」と述べているという。

鈴木選手自身、これまでアジア大会などでの優勝経験はあるものの、オリンピック出場経験はなく、リオ五輪でも代表に選ばれなかったことから、一度は引退した。しかし、自国開催の東京五輪出場を目指して、再起を賭けていたところだった。

この事件が前代未聞である点は、自分の記録を伸ばすために自ら禁止薬物を摂取したのではなく、ライバルを陥れるために禁止薬物を飲ませたという、手の込んだ卑劣きわまりない内容だったということである。

まるでオリンピック代表の座を勝ち取るために、悪魔に魂を売り渡してしまったかのような振る舞いではないか。

 

オリンピックを巡ってライバルを蹴落とそうとした事件として、記憶に残っているのは、1994年のリレハンメル五輪のフィギュアスケート、アメリカ代表選考会での事件である。

トップ選手のナンシー・ケリガン選手が、何者かに襲撃されるという事件が起こったが、それはライバルのトーニャ・ハーディング選手の仕組んだことだった。オリンピックには魔物がいると言われるが、その前哨戦にも魔物がいるようだ。

新メディア「現代新書」OPEN!