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安倍首相が大号令「行政文書のペーパーレス化」は本当に可能か

役所のシステムが抱える難問を明かそう
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電子行政「二つの変化」

電子政府・電子行政システムについて、昨年12月、ちょっとした進展があった。大相撲・日馬富士の暴力事件に端を発したゴタゴタとリニア談合の騒動に掻き消されてあまり話題にならなかったので、確認の意味でも記事にしておきたい。

一つは約6万種もある漢字の異字体を、JIS X0213に定められた1万強の字種にリンクする「文字情報基盤(MJ)縮退マップ」が完成したこと、もう一つは安倍晋三首相が公式の会議で「行政手続きにおける電子申請に紙の書類を添付することを一括して撤廃する」と述べたことだ。

まず、前者について説明してゆこう。

「MJ縮退マップ」という言葉を耳にしたことがある人は、そう多くないかもしれない。これは、地名や人名に使われる漢字を、コンピュータで処理する際に使うコードを体系化したものだ。

新聞や雑誌などが標準にしている常用漢字は2136、人名用漢字は863、コンピュータ処理のためのJIS第1水準が2965、JIS第2水準が3390ある。JIS第1、第2を合わせたのが「JIS X 0208」(通称JIS漢字コード)で、日本では、これらおおむね6000字種をマスターすれば、日常生活に支障はない。

これに人名や地名に使われる異体字などを追加し、行政の事務処理用に範囲を広げたものが「JIS X 0213」である(下図参照)。

ところが明治初年から近年まで——正確に言えば明治4年(1871)4月4日(4のゾロ目は偶然)に成立した「戸籍法」から、2004年4月の法務省通達「戸籍手続オンラインシステムの構築のための標準仕様書」まで——出生・婚姻・死亡・財産分与・不動産の売買などに伴う行政手続きは、住民(国民)が手書きの書類を提出することで行われてきた。

その手書きの書類を、役所の職員が台帳に転記する。その過程で正字・略字・俗字が入り乱れ、さらに誤字・造字・あて字、点やハネ・払いの有無などなど、異体字が発生することは避けられない。

漢字の本家である中国は、清・康熙帝の康熙55年(1716)に成立した『康煕字典』に約5万、1994年編纂の『中華字海』には現在の簡体字を含めて8万5千の字種が収録されている。一方、日本語では戸籍名などに使われる文字を総計するだけで約6万、その外字(異体字)を合わせると20万とも100万ともいわれる膨大な数に膨れ上がる。

これらの文字を整理して、コンピュータが処理できるようにコードを付けていかないと、行政実務において、ネットワークを介してデータを交換することも異種システム間で共有することもできないのだ。

 

「1文字100万円」のオイシイ仕事

こうした問題は、1980年代から行政管理システムの世界では「外字問題」の名でしばしば指摘されてきた。2001年のIT基本法(「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」)とほぼ同時にスタートした住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)では「解決すべき課題の一丁目一番地」と位置付けられていた。

住基ネットがスタートしたとき、総務省は「住基ネットシステム統一文字」として約2万種の漢字を規定したが、それにも含まれていない「外字」が存在する。あるいは単なる誤字であっても、市町村の窓口職員が「これは見覚えのない漢字だな」と判断し、新しく文字を作ってしまうケースもある。

この「外字」をデジタルフォント化する作業は、行政システムにかかわるITベンダーにとって、「1文字100万円」といわれるほどオイシイ仕事だった。

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