中国

中国「大物政治家」のスキャンダルを暴露し続けた大富豪の狙い

民主化の星か、中国版籠池氏か…
安田 峰俊 プロフィール

なぜ習近平については攻撃しないのか

――確かに郭文貴さんや家族の心身の安全は危機にさらされているはずです。彼が自己防衛策として積極的に発言を続けているのは確かでしょう。しかし、財産権については正当な「維権」(権利の保全)だと言えるでしょうか。彼の財産は、かつて体制側と癒着して稼いできたものも多いはずで、本来は不当に搾り取られた中国人民のカネです。

楊:その質問には一理ある部分もあります。郭さんのカネが100パーセント、クリーンなものとは言えないところもあるでしょう。この問題は将来、法治によって解決されるべきだと思います。

――「法治」とは中国の法治でしょうか。

楊:そうです。郭さん自身も、いまは法治の重要性をわかっていると思います。

――そうですか……。ほか、郭文貴さんの言動については、在外中国人民主活動家の間でも賛否両論があるようです(※たとえば1989年の天安門デモの元リーダーの王丹は「まったく関心がない」と距離を置く姿勢を示している)。

楊:確かに。人によって考えは異なりますね。

――中国の民主化運動はもともと、楊建利さんを含めて、中国国内ではかなりハイレベルな知識人層だった方がリーダーシップを示してきたものでした。対して、郭文貴さんは高学歴層ではなく、またかつて中国の体制内で甘い汁を吸っていたとも思われる政商です。たとえ彼が中国共産党の批判者であるとしても、民主化運動のスターとして祭り上げてしまうことに問題はないのでしょうか?

楊:中国の民主化を担う人々の母体は、従来よりも広がりを持つべきであると考えます。天安門事件経験者だけ、知識人だけがその担い手であるとは限りません。郭さんは中国民主化運動の裾野を広げた人であると思います。

中国では改革開放政策以降、民間企業の人々は民主化運動に対してまったくかかわってきませんでした。郭さんはこうした前例を破る、新たな層の参加者だと考えています。

※楊建利氏。天安門事件に参加後にアメリカに亡命。2000年代にこっそり帰国した際に中国当局に逮捕・投獄されたこともある。現在も言論活動は活発だ。

―郭文貴さんは「爆料」(暴露)のなかで、王岐山や孟建柱の腐敗を徹底的に攻撃するいっぽう、習近平については攻撃していません。なぜでしょうか。

楊:習近平に対して、郭さんは私に直接「中国の法治を推進する人物だ」「策略上、習近平と敵対するのは賢くない」と話していました。私としては、習近平に対する郭さんの期待値は高すぎるのではないかとも思うところはあります。しかし、ある状況のもとでは、一定程度は現実に合わせた振る舞いをしなくてはならないことも確かではないでしょうか。

――郭氏は習近平のほか、前総書記の胡錦濤や、ファミリーが相当に腐敗まみれだったとされる前総理の温家宝も「爆料」のやり玉には上げていないようです。いっぽうで江沢民に対する批判はある。批判対象に対する、郭氏の「シロとクロ」の基準はいったい何なのでしょうか。

楊:まず、王岐山や孟建柱については、郭さんにとっては正面の敵で、彼のさまざまな権利を侵害する明確な脅威であるから、多くの批判がなされるのでしょう。いっぽうで習近平・胡錦濤・温家宝は、それぞれ腐敗してはいるものの、郭さんから見て直接的な敵ではない。

また、党と国家のトップである習近平はもちろん、共青団派のトップである胡錦濤にも、まだ権力がある。さまざまな理由から、習・胡・温の3人は批判の対象から外れているのだと思います。

――ありがとうございました

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