経済・財政 AI

AIを使って働かないでメシを食う、は可能か。「生産性」から考えた

すべての時間を「消費」に使う未来とは
加谷 珪一 プロフィール

「生産性」のカラクリ

この式は、経済を順調に拡大させるためには、労働力と設備を常にバランス良く投入する必要があることを示している。企業が生産を拡大しようとする場合、人を増やすか設備を増やすかの選択を迫られる。

人を増やせない場合、設備を増やすことになるが、最初は設備を増やした分だけ生産量が増えるものの、やがてその効果も薄れてきてしまう。

これは企業のIT化を想像すれば分かりやすいだろう。

最初は2人で1台のパソコンをシェアしていたところに、追加で設備投資を行って1人1台にすれば生産は拡大する。しかし、1人2台になれば生産が2倍になるのかというそうはいかない。

これは、先ほどの生産関数において、労働量Lを一定にし、資本Kを増やすことに相当するが、その時の生産量は、右側のグラフになる。当初は資本を投入すると、生産量が大きく増加するが、投入量が増えてくるにしたがって、生産量の増加分が小さくなってくる。あまり設備投資をやり過ぎると、効果が薄れてくるのだ。

結局のところ、ある程度、設備投資を実施した後は、その設備が十分に稼働できるよう人を雇う必要が出てくる。つまり、人と機械は相互に投入しなければ順調に生産を拡大することはできない。

ところがAIが普及するとこうした状況に変化が生じてくる。

Photo by iStock

業務のかなりの部分がAIやロボットに置き換えられるとなると、企業は積極的にAIへの投資を行い、労働者への依存度を減らしていくだろう。そうなると経済全体における労働分配率が著しく低下し、逆に資本分配率が増加することになる。

先ほどの生産関数の式において、労働分配率が著しく低下した場合、生産力のグラフはかなり直線に近くなってくる。つまり、ロボットやAIに追加投資をした分がそのまま生産拡大につながり、企業は半ば無制限に生産量を拡大できるという解釈が成り立つ(左側のグラフ)。

 

結局、人は働くことになる?

もちろん現実には、すべての労働をAIで代替することはできないが、理屈の上ではそうした状況が起こり得るのだ。ここで重要となるのが、需要の問題である。

いくら生産力が無限になっても、そこで生まれた製品やサービスを使う人がいなければ経済は成長しない。

だが先ほど説明したAI経済の世界では、多くの労働者が不要となり、AIが生み出す利潤を何らかの形で国民に再分配する機能さえあれば、多くの人が働かなくても収入を得られるようになる(一部の識者はAI化を実現した上で、べーシックインカムの導入を主張している)。

すべての時間を消費に使うことができるので、1人あたりの需要は飛躍的に伸びるに違いない。そうなってくると従来の常識では考えられなかった水準で、需要と供給が拡大することになる。

一部の人はこうした社会を「生き甲斐がなくなる」と嘆くだろうが、本当にそうだろうか。

労働時間がゼロになるというのは極端にせよ、AI化、ロボット化を本格的に進めれば、1日の標準労働時間が8時間である必然性はなくなってくる。

時間にゆとりがあり、従来と同様の年収が維持されるのであれば、多くの人は、新しい行動を始めるはずであり、そこには別のビジネス・チャンスが生まれてくるはずだ。これによって新規の需要が生まれ、結局は、多くの人が、再び積極的に労働に従事する結果となるかもしれない。

働かなくてもメシが食えるというのは夢物語で終わってしまうが、それはそれで良いことではないだろうか。