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リーマンショック前と酷似する日本経済の問題はコレだ

内需主導の自律的な景気回復が始まるか
竹中 正治 プロフィール

民間企業部門の過剰な貯蓄超過が元凶

経済を構成する全ての部門が貯蓄超過に走れば、需要減→生産減→設備投資減→所得減→需要減という縮小再生産のループに陥ってしまう。

ブーム期の過剰投資で企業部門が過剰債務を抱えてしまった局面では、その後しばらく企業が貯蓄超過になって債務を圧縮するのは必然的なことだ。

その間、政府部門が資金調達超過(財政赤字)になれば、需要の縮小による景気の後退を最小限にとどめることができる。これが景気循環に対する財政政策の緩衝機能であろう。

ところが日本経済の問題は、過剰債務状態がとっくに解消しても、企業部門の貯蓄超過が継続していることだ。それが勤労者家計の所得と消費の伸びを抑制し、経済全体の成長率の低下、並びに財政赤字を必然化させている不均衡の主因になっている。 

さらに言うならば、一部のエコノミストの主張とは異なり、物価の変化も単純に貨幣・金融的な現象ではない。

インフレには、デマンド・プル型とコスト・プッシュ型があり、前者では企業部門から家計に所得が移転し、家計所得の増加→消費需要増加という実体経済の経路が働かないと物価は上がらない。

過去5年間の日銀の「量的・質的金融緩和」はそれを証明したとも言えるだろう。

米国でも2008年の金融危機で資金調達の危機に直面した企業が、その後の景気回復期に現預金などを増やす、あるいは債務を減らす動きは見られた。

しかし、株主の権利意識が強い米国では過剰な内部留保を企業が続けることは許されず、内部留保から設備投資を引いた残りは、配当や自社株買いの形で最終株主(家計)に還元される傾向が強い。

 

2018年は重大な分岐点

企業利益が史上最高を更新し、株価が上昇を遂げている現在、日本経済が消費を中心にした自律的な回復に転換するために必要なことは、もはや明白だ。

すなわち企業部門の過剰な貯蓄超過と言う不均衡が是正され、賃金や配当の形で家計への所得の移転が起これば良いのだ。

あるいは人手不足が深刻化した今日、AIの利用を始め機械化によるビジネス・イノベーションのための設備投資も有望だ。

この点で2000年代と違った希望の芽もないわけではない。図1に示した通り、2006年以降の第3期には、雇用の増加で雇用者報酬が年率プラス2.3%と高い伸びをしていることだ。

ただし1人当たり賃金(1人当たり現金給与総額)の伸び率は微弱で、ほとんどは雇用者数の増加によるものだ。景気の回復で失業率が下がり、さらに女性の労働参加率が上がり共働き世帯の増加や、高齢者の労働参加率が上がった結果である。

賃金の伸びが抑制されているためだろうか、消費者のマインドを示す内閣府の「消費者態度指数」はジリジリと改善はしているが、依然先行きには警戒的な消費者が多いのだろう。

そうした事情が2006年以降の実質雇用者報酬の高い伸び(年率平均プラス2.3%)と相対的に低い最終家計消費の伸び(年率平均プラス0.9%)という跛行的な状況を生み出していると考えられる。 

こうした問題状況は現政権も理解しており、賃金と設備投資を増やした企業には法人税率を引き下げる税制面の優遇処置を打ち出している。これまで強い賃上げ要求に及び腰だった連合もようやく4%(定昇込み)を掲げ、経団連も賃上げ3%の方針を検討しているそうだ。

労働市場の流動性を高め、高い専門能力を有する人材を優遇する方向への労働規制改革が、連合などの抵抗でなかなか進まない点に歯がゆさもあるが、マクロ経済的には順風が吹いている。

この順風の局面を活かして、本当に内需主導の自律的な景気回復パターンが始まるか、あるいは海外景気依存の脆弱さを克服できないまま終わるか、2018年の日本経済はひとつの分岐点に差しかかっていると言えよう。