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日本食で必ず目にする「あの緑の葉っぱ」は本当に中国がルーツなのか

深すぎる「バラン」の真実

本物はこんな姿をしている

あけましておめでとうございます。この年末年始、筆者は中国で過ごしましたが、読者の多くは例年通り、家族や親戚とおせち料理を食べつつ過ごされたことと思います。

今回は、おせちやオードブル、また寿司やお弁当を食べる時、知らず知らずのうちに目にしている「コレ」についてお話ししたいと思います。

筆者撮影

これが「バラン」と呼ばれる物体である、ということは、すでにご存知の方も多いかもしれません。スーパーの惣菜、コンビニの弁当でさえ必ずと言っていいほど添えられているバランは、もはや日本の食文化の一部と言っても過言ではないでしょう。

一方で、「回らない」お寿司屋さんや高級割烹などに行くと、こんな巨大な葉っぱを目にすることがあります。

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この葉っぱこそが、本物の「バラン」です。

バランは正式には「葉蘭(ハラン)」と呼ばれるキジカクシ科(=旧ユリ科)スズラン亜科の植物。「蘭」の名に反して、ハランの花は非常に地味で、地表近くにひっそりと咲きます。

ハランの特徴は、何と言ってもその巨大な葉。大きいものでは長さ50cmを超えることも珍しくなく、観葉植物としても親しまれています。

実は生きたハランは、市街地の植え込みにもたくさん植えられています。冬場でも夏と同様に大きな葉が生い茂るため、重宝されているのです。しかし、道ゆく人が目を留めることはほとんどありません。もちろん、この植物があのプラスチックでできた「バラン」の由来だと気付く人も、まずいないでしょう。

 

筆者は生物写真家として活動する一方で、主に中国西部~南部をフィールドワークしながら、生物の分布や拡散を地理的な要因と合わせて分析する「生物地理学」というマイナーな学問を専門としています。

この生物地理学の観点から眺めてみると、ハランは非常に謎に満ちた植物です。その歴史には、中国大陸と日本列島・南西諸島の自然史が詰まっているのです。

駅の植え込みに植えられたハラン(筆者撮影)

「中国出身」が定説だけど…

ハランは日本人には古くから親しまれてきた植物で、江戸時代に観葉植物として中国から輸入されたと言われています。その後も長らく、生物学の専門家の間では、ハラン属の数十種類の植物はほとんどが中国の固有種であると考えられてきました。

おそらく「ハランは中国原産」説の根拠のひとつとなったのが、古代中国の文献に「馬蘭」という植物についての記述が数多く残されていることだと思われます。この「馬蘭」が日本へ伝来して「バラン」と呼ばれ、やがて読み方が「ハラン」というふうに清音化した、というのが定説です。

ところが、筆者はおよそ30年にわたって中国各地の動植物を観察してきましたが、中国大陸で、日本のものと同じ種類の「野生のハラン」を目にしたことが一度もありません。中国でも日本と同様に、観葉植物としてのハランはかなり普及しています。また、中国東南部や台湾の山岳地帯などで、野生ハラン属の植物にいくつか出会ったことはありますが、どれも日本のハランとは明らかな別種です。

中国の古い文献にも当たってみたものの、よくよく読むと、やはり中国でも昔からハランは観葉植物だったらしく、道端や茂みに生えている「野生種」の存在をうかがわせる描写はないことがわかりました。

このハラン、本当に「中国原産」なのでしょうか?

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