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経済は好調なのに、なぜ世界は「心理的な戦争状態」へと漂流するのか

感染力を強める「トランプ病」

この1年で起きたパラダイム・シフト

昨年(2017年)のノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ氏の作風の一つは、価値観が変化する時代を生きた人々が過去を振り返り、風化する「記憶」と向き合うことで人生の意味を問い直すというものだ。

親ナチスのイギリス貴族に仕えたバトラーの心象風景を描いた『日の名残り』や、戦後の長崎とイギリスを舞台に女性の生き方を描いた『遠い山なみの光』などを読み、混迷する現在の国際情勢を考えるヒントがあるように思えた。

それは、世界がこの1年で目の当たりにしながら、多くの人が現実として受け入れ難いと思っている「トランプ現象」に関わることである。

トランプ米大統領誕生から1年で世界は大きく変わった。

「noises without action(雑音ばかりで実行を伴わない)」と揶揄されてきたツイッター大統領の影響力は過小評価されてきたようである。

当初、「フェイクニュース」や「もう一つの真実」という言葉は取るに足らない戯言と受け止められていたのではないか。それが今やどうだろう。

シリアのアサド大統領をはじめとする独裁者や、ロシア政府報道官ら権威主義政権の当局者らが、人権侵害や汚職、国際法違反などで厳しい批判を浴びても「フェイクニュース」の一言で済ませ、平然としているのが今の世界だ。

 

かつて自由や民主主義の理想で世界を照らしたアメリカの位置づけは瞬く間に反転し、独裁者やポピュリストらの「丘の上の町」(仰ぎ見るべき手本)となってしまった感すらある。

そこに広がるのは、「現実」と「仮想」を識別する感覚が麻痺した国際政治の世界である。

わずか1年でこれだけのパラダイム・シフト(価値観の一大転換)が起きたのだから、世界が袋小路に迷い込まないはずはない。

懸念するシナリオ

トランプ大統領は昨年12月、70年にわたるアメリカの政策を転換し、エルサレムをイスラエルの首都と認定した。

これに対し、アメリカを除く国連安保理14ヵ国が「反対」で結束したことは、倒錯する世界を象徴する出来事だろう。

アメリカのエルサレム首都認定に抗議するパレスチナの人々アメリカのエルサレム首都認定に抗議するパレスチナの人々。2017年12月22日〔PHOTO〕gettyimages

自由主義世界の守護者としてのアメリカという「記憶」と、暴君的なトランプ大統領が君臨するアメリカという「現実」の間のギャップ。アメリカが現在のコースを進むなら、その記憶すら風化していくのではないだろうか。

トランプ政権発足1年の変化をこう概括した上で、今後の世界情勢の方向性を展望してみたい。

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