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読書人の雑誌「本」

売れてます!瀬戸内寂聴・95歳最後の長編小説の読みどころ

いのちの瀬戸際を見てたどり着いた境地

95歳になった第一線で走り続ける瀬戸内寂聴さん。最新作の『いのち』を執筆中に体調を崩されご自身でもいよいよ「死」を意識されたものの、現在は大好きな肉をモリモリ食べ、お酒もたしなむまでに回復された。

生まれ変わってもまた、女で小説家でありたいと話す瀬戸内寂聴さんにご自身の半生となどをインタビューした。

人間って案外死なないものね

―12月に発売となった新作『いのち』は、「群像」での連載をまとめた作品ですが、連載の途中で体調を崩され休載した期間もありました。いまお体の具合はいかがですか。

しばらくは新幹線に乗るなんて想像できないような状態でしたが、お陰さまでいまではこうして京都から東京まで出てこられるほど回復しました。食事も以前のようになんでも食べられています。昨夕もスタッフたちと、好きなお肉をモリモリ食べてきました。お酒も相変わらず飲んでいます。

腰の圧迫骨折や胆囊がん手術が重なって体調が良くなかった時には、「このまま逝くんだな」なんて思っていたのに、人間ってしぶとくて案外死なないものですね(笑)。

いま京都・寂庵には私より66歳若い女性秘書と、それより3歳若い事務員がいるんですが、この娘たちと暮らすようになったおかげで、命が延びたような気がしています。今の若い人は発想も感性も全く面白いですね。

特にまなほという秘書は明るいし可笑しいんですよ。毎朝、この娘の顔を見ると笑顔になるし、一日に何度も声をたてて笑わせてもらっている。それが私の元気の素になっているような気がします。まなほが寂庵に来ていなかったら、もうちょっと早く死んでいたかもしれない(笑)。

―『いのち』の連載は最後まで書き上げられるか、ご自身でも不安になられたそうですね。

そうですね。連載が終盤に入った頃はしょっちゅう病気をしましたね。心臓の手術もしましたから3ヵ月ほど休載させてもらいました。

92歳の時に胆囊がんが見つかった時には、すぐお医者さんに「取ってください」とお願いして、腹腔鏡を使って取ってもらいました。痛みがあったわけじゃないし、90歳を超えたおばあちゃんだから手術をしないという選択だってありえるんですが、お腹の中にがんが残っていると思うとどうも落ち着かない。だから即断でした。

でも、「心臓が悪いですよ」とお医者さんに言われた時には、ちょっと心境が変わっていましたね。先生には「もうそろそろ死にたいから手術は結構です。放っておきます!」って言ったんですよ。

そうしたらお医者さんは「ああ、そうですか」と言った後、ひと言つけ加えたんですね。「でも死ぬ前にとても痛いですよ」って。私、痛みにはとても弱いの(笑)。そこで「痛いんじゃあ仕方がない、手術やりましょう」と。それでカテーテルを入れて治療してもらいました。

そんな手術もあって、なかなか退院できなかったので、少し休載させてもらいました。もう小説家になって70年ですが、連載を途中で休んだことは一度もなかったのにね。そんなこともあって、「これはいつ死んでもおかしくない、果たしてこの連載を最後まで書き上げられるだろうか」と思ったんですが、なんとか完走することができました。

 

―いくつもの大病に打ち勝ち、90歳を超えてからも作品を生み出し続けている現役作家は他に例を見ません。体力も抜きんでたものを持っていらっしゃる。

そう、身体は丈夫なんでしょうね。20歳の時、40日断食しました。それで体質が変わったんです。

それに関して、自分の死を意識した時、ちょっと悩んだことがあるんです。

これ、人様に言うのは恥ずかしいんだけど、私は出家している身だから持っているものを困っている人に分け与えなきゃいけない立場でしょう? モノは気前よくあげられるんですが、一つだけ人様にあげたくないものがあるんですよ。

―なんですか?

臓器です。もちろん臓器提供の意義は大いに認めていますよ。ただ自分のことに引き付けて考えてみると、いくら死んだ後とはいえ、知らない人に自分の臓器をあげるのは感覚的に嫌だなぁと思っていたんです。でも「出家者はこんなこと言っちゃいけない」という思いもある。

それで秘書のまなほにそっと打ち明けたんです。「あげるべきなのはわかっているけど、でも知らない誰かに臓器提供をするのは嫌なのよ」って。

そうしたらまなほが、お医者さんの奥さんになっているお姉さんに連絡して、いろいろ聞いてくれたんです。それでわかったんですが、90歳を超えたおばあさんの内臓はそもそもすべて役立たずで、要らないそうなんです。

まなほから「よかったですね」って言われたけれど、ちょっと複雑ね。臓器も95歳ですけど、それぞれ結構丈夫だとは思うんですけどね(笑)。

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