Photo by iStock
国家・民族 週刊現代 歴史

人気歴史家・磯田道史が語る、学校では教えない「西郷どん」の魅力

歴史の裏側はこんなにおもしろい
いま歴史を語ってもらうなら、この人! 歴史エッセイ集『日本史の内幕』を上梓した、人気歴史家の磯田道史さんに、学校では習わなかった「西郷どん」の魅力をうかがいました。

無邪気な男の素顔

―『日本史の内幕』はこれまで磯田さんが手に取ってきたさまざまな時代の古文書をめぐって書かれた歴史エッセイ集です。古文書について語る磯田さんの文章は、心の底から楽しそう。読んでいて引き込まれます。

以前、「虫取りに熱中する少年のようだ」と書評されたこともあります(笑)。たしかに、古い文書を紐解くのは色々な虫を網で捕まえて、じっと眺めるような楽しさがあります。新たな発見をするのはこの上なく嬉しい。

たとえば本書では、伊賀の忍者の話や、徳川埋蔵金の話などで「隠れた事実」を書いています。例えば、「埋蔵金が出てくるとしたら小判ではなく弐分金で、油酒樽に入っているはずだ!」などと当時のことを考察するのは心おどる時間です。

もちろん、古文書を読めるようになるには、砂を噛むような努力が必要なのですけれど。

―磯田さんは、今年の大河ドラマ『西郷どん』の時代考証も担当されています。本書には、西郷の書簡を手に入れた際のエピソードも描かれていますね。

ネットオークションなどに西郷の書として出品される書画は偽物も多く、3つに1つ本物があればいい。それだけ人気があるということでしょう。だからこそ、本物を見つけた時の喜びは一入です。

西郷直筆の書状を読むと、行間がきちんと一定の間隔で空いていて、彼の人柄が伝わってきます。これは現物にあたらないと分からないことです。なぜ最後は賊軍とされた西郷が、日本人にこれほどまでに愛されるかというと、やはり人柄でしょう。「無邪気なものは愛される」といいますが、西郷はまさにそうです。

―西郷と言えば、上野公園の銅像に代表される、しかめ面で無愛想なイメージがあります。

小説などでは、一般に「義に殉じた堅物」というイメージで西郷を描きがちですが、実は、彼には赤ん坊のような一面もあったんです。

戊辰戦争の時に、西郷は薩摩から船で日本海を回り、庄内藩(山形)の酒井家を攻めた。溺愛する弟の吉二郎も同行していました。その時、吉二郎は戦で傷つき、船中で瀕死の状態だったのに、連絡が悪く西郷には知らされていなかった。

結局、西郷は弟の亡骸と対面することになるのですが、その後、引きこもって体を「く」の字に曲げて横になり、幼馴染に手を引かれても「お腹が痛い、お腹が痛い」と駄々をこねた。辛い出来事に直面すると、幼児退行するところがあったのです。

―意外な一面ですね。

 

印象的なエピソードをもうひとつ。戊辰戦争の前に大久保利通らと、京都の祇園で宴席を囲んだ際の西郷の様子が、とても愉快なんです。

美しい芸妓との時間を楽しむ場に、なんと西郷は犬を連れてくる。そして、鰻飯を自分の分と犬の分2人前注文し、犬と一緒に鰻飯を嬉しそうに食べて帰っていく―その様子を見た君龍という祇園の芸妓が「粋な人でした」と書き残しているけど、それは粋とは違うと思う(笑)。

―大河ドラマの主人公候補をNHK関係者に提案されたという話も興味深いです。その中には井伊谷の次郎法師、つまり「直虎」もいました。

『おんな城主直虎』、面白かったですね。あの大河は、「ディズニープリンセス」たちの物語と共通するところがあったと思うんです。

つまり、ただ王子様に憧れる女の子やお姫さまではなく、自立して自分の人生を選択する女性を描いている。次郎法師は王子様どころか、盗賊と恋に落ちますが、これはアラビアンナイトのアラジンと同じですよね。

史実の彼女は井伊家の存続を最優先にしていたと思いますが、ドラマでは菅田将暉さんの演じる直政に家を任せ、自分は「ありのまま」で堺に行って盗賊と暮らしたりする。エンターテインメントとしてうまく脚色された作品だったと思います。

新生・ブルーバックス誕生!