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2018年、日本で「ヒアリ戦争」が勃発する

「瀬戸際」で防ぐためにやるべきこと

2018年、ヒアリに警戒すべし――。こう指摘するのは、アルゼンチンアリなどの侵略外来種の研究を続ける坂本洋典氏だ。坂本氏の警告を聞こう。

2018年、ヒアリ戦争がはじまる

2017年の流行語大賞にこそ選ばれなかったものの、「ヒアリ」は2017年を象徴する言葉のひとつだろう。

南米原産の外来生物であるこのアリは、ハチと同じく人を刺せる毒針をもつ。そして、人間が刺された場合には急性アレルギー中毒(アナフィラキシーショック)を発症し、生命の危機にすら及ぶ場合があるのだ(坂本 2017)。

このアナフィラキシーショックはスズメバチによるそれと同様に治療が可能であり、治療法が存在しない未知の病原体のように恐れるのは大げさといえるが、他方、ヒアリは極めて繁殖力が高く、1つの巣には約20万個体もの人を刺しうる働きアリが暮らす。

これらの働きアリは、とくに巣の周囲の縄張りでは攻撃的である。そしてヒアリが好んで巣を作るのは、公園やコンクリートの隙間といった、人間の手が加わった環境なのだ。

 

毒の強さというより、日常生活において遭遇する機会が非常に多い攻撃的な生物であるという点から、危険生物としての脅威は、スズメバチなどをはるかに超えると言っても過言ではない実際に、アメリカ合衆国のヒアリ生息地で暮らす人の3割以上が、年に1回以上ヒアリに刺されているとされる(Staffordetal.1989)。

では、ヒアリの日本への侵入はどの段階まで進んでいるのだろうか。

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2017年の夏から秋にかけて環境省と国土交通省が主体となって実施した、日本全国の68港湾における複数回の調査において、ヒアリが繁殖をはじめている証拠となる特徴的なアリ塚は幸いにして確認されなかった。

そのため、現時点ではヒアリの侵入は野生化に至っていない初期段階と推定されている。ただし、これで何事かが終結したわけでは決してない。今年もう一つ恐れられた「ランサムウェア」を思い返してみよう。インターネットを利用する限り、新しいコンピューターウイルスとの戦いは常に続く。

人間間においても、海外との物流や人の移動を続けるかぎり、新しい外来生物が侵入することへの警戒は絶やしてはならないのだ。

ウイルス対策ソフトは随時アップデートする必要があるように、外来生物への対策も常に最新の方策を打ち出す必要がある。2017年のヒアリ狂想曲は終わりではなく、むしろ続くヒアリとの継続的な戦い、ヒアリ戦争の開戦を告げるゴングだったのではないだろうか。

バームクーヘンにむらがるヒアリ

女王アリを飛び立たせるな

ヒアリ戦争の序盤戦における最重要の鍵は「繁殖を防げるかどうか」である。日本に侵入したヒアリが国内で繁殖をはじめると、独力で分布を拡大する野生化への道を広げ、定着の危険性が増すからだ。

ここで、ヒアリの生態をより細かくみてみよう。ヒアリなどアリ類は真社会性昆虫と呼ばれ、繁殖のみを仕事とする女王アリと、繁殖以外の全ての仕事をする働きアリに分かれている。

つまり、ヒアリの巣(コロニー)が成長し、新しい女王アリが巣から飛び立つようになると、野生化への危険が一挙に増す。もしヒアリの女王アリ1個体が単独で侵入した場合、新たな女王アリの生産が可能となる初期コロニー(働きアリの数が5千~1万個体程度)が成長するまでの期間は半年から10ヵ月程度と推定されている(東ら、2008)。

ただし、ヒアリにおいては、一つの巣の中に複数の女王が共存する多女王制コロニーも世界各地に侵入しているため油断は禁物である。つまり、多女王制コロニーにおいては、女王アリと働きアリが一緒に侵入し、迅速にコロニーを成長させて繁殖をはじめる恐れがあるのだ。

とくに、ヒアリの餌となる動植物が豊富な春から秋にかけては随時目を光らせなければならない。ヒアリの繁殖はたちが悪いことに、ピークこそあるものの、暖かい時期の間は継続的に行われる。初期コロニーを放置する時間が長いほど、危険性は増すのである。

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