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相撲ファンの「国籍差別」が、相撲界を貶めているという悲しい皮肉

「日本出身」にこだわる意識の正体は?
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ため息が出るほど美しかった

―星野智幸さんがこのほど上梓した『のこった もう、相撲ファンを引退しない』は、相撲へのあふれんばかりの思いが綴られたエッセイ集です。

相撲を取り巻く最近の「騒動」を考えるうえでまさにタイムリーな1冊ですが、一貫して純文学を手がけてきた星野さんが「相撲本」を出されたのは驚きでした。最初に相撲に関心を持ったのはいつ頃だったのでしょう。

真剣に見始めたのは13歳の頃。'70年代の終わり、輪島や北の湖が活躍した輪湖時代の終盤です。その後も、朝潮の「大ちゃんフィーバー」、千代の富士人気、寺尾、小錦ら「花のサンパチ組」……常に相撲を追いかけていました。

私は一貫して取組の「あや」を楽しんでいて、派手さよりも玄人好みの相撲のうまい力士が好きでした。そして、それを完璧に満たしてくれたのが、貴花田でした。

―後の横綱・貴乃花、現在の貴乃花親方ですね。いま、まさに世間に注目されている「時の人」ですが、本書で貴乃花を語る星野さんの言葉は並々ならぬ熱を帯びています。

もう、思い入れが強すぎて(笑)。何と言ってもあの相撲に対する真摯な姿勢が大好きでした。若貴フィーバーが起きたのは、日本がバブルに浮かれた時代のこと。私はあの時代の軽薄さについていけなかった。そんな時に、貴乃花が見せる相撲へのストイックさが心に響いたんです。

基本に忠実で、とにかく前へ前へと出て、一歩も引かない。元関脇水戸泉の錦戸親方は、「ねじ伏せる強さじゃなくて、相手に力を出させない強さ」と評していましたが、同感です。

もともと新聞記者だった私が「やっぱり文学の道で生きていこう」と決断した際にも、貴乃花の相撲の影響がありました。脇目も振らず、自分の信じた道を切り開いていく。自分もああいう生き方をしたいと思わされました。

ただし、引退後の貴乃花はその頑なさが悪い方向に出ている気がします。一言だけ言うとすれば、「まず相手を受け入れ、対話をしてみること」も、人を預かる立場の親方の大切な役割ではないかな、と。私は、貴ノ岩のファンなので、何より彼の心と身体が心配なのですが……。

―貴乃花の引退とともにしばらく相撲への関心を失っていた星野さんの目を久々に釘付けにしたのが、また今回の騒動の渦中にいる白鵬でした。

'14年に白鵬が大鵬の持つ優勝記録を塗り替える33回目の優勝を達成しそうだ、とニュースで知ったのがきっかけです。あの大記録を破る力士はどんな相撲をするのか。そう思って見た白鵬の取組は、まさに私好みのうまい相撲、ため息が出るほど美しい相撲でした。

「国技」という隠れ蓑のもと

―白鵬のおかげで相撲熱を取り戻し、ふたたび国技館に通うようになった星野さんが直面したのが、本書の大きなテーマとなってくる「相撲と差別」の問題です。

'15年の初場所、白鵬が優勝を懸けた取組で、私の席の斜め後ろから野次が飛びました。「日本人力士頑張れ!」と。驚きましたね。これが対戦相手の「稀勢の里頑張れ!」なら理解できますが、なぜ、力士対力士の一対一の勝負の場に、国籍の問題が持ち込まれるのか。

私はいつも静かに観戦しているのですが、あの時はさすがに頭に血がのぼり、「白鵬、白鵬!」と絶叫していました。

―稀勢の里の横綱昇進が期待された時期から報道で用いられるようになった「日本出身力士」という言葉に対しても疑問を呈しています。

稀勢の里は素晴らしい力士で、私も大好きです。ただし、「日本出身」とことさらに祭り上げる必要があったのか。武蔵丸や旭天鵬など、現役中に日本に帰化した力士をわざわざ排除する言い方です。

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