東山彰良氏・峰なゆか氏

直木賞作家による「モテない男の子のためのモテ講座」

東山彰良×峰なゆか【特別対談】
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直木賞作家・東山彰良氏が、モテという人類最大のテーマに挑んだ『女の子のことばかり考えていら、1年が経っていた』。発売を記念して、峰なゆかさんとの対談を行いました。

“モテ”の考察

――この対談の仮タイトルは「女の子のことばかり考えていたら、いつの間にか中年になっていた、モテない男の子のためのモテ講座」です。

東山 この『女の子のことばかり考えていたら、1年が経っていた。』(以下、『女の子〜』)を書いた時、登場人物の名前を概念化して、「有象くん」とか「無象くん」とか「イケメンくん」だとか付けて、わりと悦に入っていたのですが、それよりずっと前に『アラサーちゃん』で峰さんがやられていたことを編集部から聞いて、「僕だけが考えていたのではないのだな」とちょっとショックを受けましたね。

最初から「モテ」というテーマを前面に出していたわけではないのです。モテない大学生、取り替えのきく有象くんや無象くんが女の子に振り回されながら、壁にぶつかり成長していく連作短編集を書いていました。本を作る際にタイトルを考えていたら、「モテ」というテーマが抽出されていき今回の長いタイトルになった、という次第です。

そんなわけで正直、峰さんのように筋道立てて「モテ」について考察したことなど僕はないのです。

 はははは、正直ですねー。

峰なゆかさんと東山彰良氏

東山 『アラサーちゃん』は色々な読み方ができる漫画ですよね。僕らの知らない男女間の「あるある」だったり、4コマならではのギャグやユーモアがあったり。僕は、ギャグとユーモアの違いは、ギャグは笑うこと自体が目的ですが、ユーモアは手段だと考えています。『アラサーちゃん』はユーモア漫画だと思いました。笑いを通じて峰さんが伝えたいのは怒りじゃないですか。

 あー、それはそうですね。日々の生活の中で怒りをもったことをネタにしています。

東山 男女が自分に対して抱く幻想と、そして相手に対しても幻想をもつわけですが、峰さんはその現実とのギャップに怒っているのではないかと。それをユーモアという手段で笑い飛ばすというのが僕の『アラサーちゃん』の読み方でした。

あまり注目されてないかもしれませんが、ぞっとさせられた一篇がありました。「ヤリマンちゃん」がお風呂の中で手首を切って自殺しようとする話です。その際に昔の彼氏とのハメ撮り映像を消し忘れていたことを思い出し、それを見ているうちに彼女がマスターベーションを始めちゃうというオチだったのですが。

 はいはい、ありますね。

 

東山 ぞっとしたのは、その吹き出しに「縦に切る」ってありましたよね。

 うんうん。

東山 僕はそれを知らなかった。リストカットって横に切るのかと。

 そうそう、本気の人は縦に切るんです。

東山 そんな予備知識、普通はないですよ。ここで、自分が知らないことを峰さんは分かっていると、僕は知るわけです。『アラサーちゃん』もどんどん深読みをするようになっていく。

もしかしたら、作者にはこのような形で命を落とした友達がいて、そのことに物凄く怒っているのではないか。死ぬくらいならオナニーすればいいのに、と。そこからどの作品にも作者の怒りをひしひし感じるようになりました。自分のもつ女性に対する幻想がどんどん木端微塵になっていきました。

 いやー、色々と壮大な考察をしていただいて、ありがとうございました。

峰なゆか氏

東山 そんなことまったく考えてなかったですか?

 ヤリマンちゃんはすぐ自殺しようとするんですけど、そのことで伝えたいのは、死への怒りというよりは、もうちょっと死を気楽に取り扱おうってことですかね。

東山 それは一周まわって、気楽にという感じですか。

 そうですね。他のキャラで自殺願望とかを扱うと、すごく暗くなっちゃうんですけど、ヤリマンちゃんの話だとなぜか明るくギャグとして扱えるところはあります。

東山 やっぱりユーモア漫画。笑いは手段として、別に打ち壊したいものがある、激しい作品だと感じました。

 ありがとうございます。私は東山さんの『女の子〜』は、男の人の汚い部分をしっかり書いてくれて、ありがとうと思って読みました。

東山 本当ですか?

 そうですよ(笑)。リアリティのある男の汚さを描く作品って、実はあまりないですよね。男女関係を描く作品でよくあるのは、男は正直なバカみたいな感じで単純になりやすい。でも実際は男同士のねちねちした醜い部分がありますよね。

普段は、よく女に振り分けられるその部分を、有象くんや無象くんのような普通の人たちできちんと書かれている、かといって悪者に描かれているわけでもない。そのあたり、すごくリアリティがあると思いました。

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