ライフ 週刊現代

「夫の後始末」を終えた曽野綾子さんが「自分の後始末」を語った

その日は、誰にでもやってくる

手前の棚には妻の本が、奥には夫の本が並んでいる。他の持ち物はあらかた処分した。夫婦の思い出だけがあればいいーー。

夫・三浦朱門氏の在宅介護生活と看取りを綴った『夫の後始末』が、発売2ヵ月半で8刷12万部のベストセラーとなっている、作家・曽野綾子氏(86歳)。最愛の夫を見送ってまもなく1年が経とうとしている中、特別に自宅での取材・撮影に応じてくれた。

朝と晩、遺影に語りかける

「三浦が遺したモノの後始末はあらかた終わったのですが、部屋の家具はまだそのままです。家具って、持ち主の目的に合わせて『合目的的』に配置されるものでしょう。だから、主がいなくなって10ヵ月が経つのに、ここだけ片付けが進まなくて」

作家・曽野綾子氏が、今年2月3日に亡くなった夫で作家の三浦朱門氏(享年91)と暮らした、東京都内の自宅。

三浦氏が最後の1年を過ごした部屋からは庭が一望でき、窓辺には真新しい介護ベッドが置かれている。

そのベッドが届いた1月末日、三浦氏は間質性肺炎で緊急入院。家に帰ってくることはなかった。

 

「かえって『しゃくに障る』のですが、三浦朱門という人は、何の心配ごとも残さなかったんですね。カネの貸し借りもないし、他人様や隣の家と係争もない。ありがたいことに、子供も孫も健康です。

朱門はモノを買うのが嫌いな人で、本の他には蒐集の趣味もありませんでしたから、遺品の整理は楽なものでした。いくつかあった背広や靴も、使える方に使っていただくよう手配しました。

ただ、本だけは触っていません。息子や孫が欲しがるかもしれませんからね」

新品のベッドは今、曽野氏が自宅で時折受けるマッサージのとき使われているという。ベッドの向かいの壁には三浦氏の遺影が飾られ、傍らには慎ましい花が供えられている。

「死者に手向けられる花は、亡くなった人のためではなく、残されて生きる家族のためにあるのだと思います。花には、生きて世話をする人が必要ですから。

朝と晩に、写真に『おはよう』『おやすみ』とだけ挨拶しています。額縁は、葬儀屋さんが用意して下さったもののままなんです。いつか気に入ったものにしたいとずっと思いながら、まだ新調できていません」