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社会保障・雇用・労働 AI

世界的権威も見逃している「AI社会のある重大な課題」

「AI社会」をめぐる4つの考察(後編)

⇒前編【人工知能の進化についての「紋切り型」は誰が作ったのか

⒊ 自由時間の過剰供給

ケビン・コスナー演じるベトナム帰還兵が、ミシシッピ州の貧しい家庭の寝室で、メア・ウィニンガム演じる妻となにやら口論している。

家計を支えるために涙ぐましい努力を続けてきた男だが、戦争の後遺症に悩まされ、なかなか定職に就けない苛立ちから、つい愛妻に向かって声をあげてしまう。

「まったくこの国は、フード・スタンプはくれるのに、仕事は与えてくれない」

90年代に製作されたアメリカ映画のそんな一場面を目撃する時、誰しもが、この帰還兵の境遇に即座に同情するだろう。

貧しい夫婦のやりとりを観て、フード・スタンプ――アメリカで、主に低所得者に支給される金券の一種である――を受け取って食料品と交換するのも、労働の対価として得た賃金で食べ物を買うのも、結果的には同じことなのだから、男が職に就けなくても問題はないはずだと、首をかしげる者はいない。

この単純な事象から伺えるのは、我々が、労働という行為を、単に生活に必要な金銭の獲得手段としては捉えていないことだ。

なるほど、経済学の教科書を開けば、経済活動における主要な生産要素として、資本、土地、そして労働が併記されているだろう。そして多くの場合、労働は生産要素としてその存在を充分に正当化し得るのだから、労働がなにやら別の機能を兼ね備えている可能性について、あえて考察するには及ぶまい。

だが、生産要素としての合理性を指摘するだけでは、必ずしも労働を説明しきれないという暗黙の認識が広く共有されていることは、アメリカ映画の一場面を引用するまでもなく、あらゆる所で容易に確認できる。

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例えば、ある国の民意を代弁すると主張する政治家が、「雇用の維持」を名目に保護主義的な政策を打ち出したとして、政策への賛否はともかく、それ自体に驚く者は誰一人としていまい。

市場原理に晒しておけば消滅する仕事を、税制優遇や助成金の付与といった処置を通じて人工的に維持するには、政府に金銭的な負担が生じる。それならば、わざわざ政策を作る手間などかけずに、同じ金額を、失業する労働者に支給すれば結果は同じではないかと、涼しい顔で指摘する者はいない。

日本の煙草農家であっても、アメリカの車部品工場であっても、「雇用の維持」が説かれる以上、労働者が生活に必要な金銭を確保することが趣旨なのではなく、労働に従事し続けられることが重要なのだという、決して明示されることのない了解があるからだ。

経済活動における生産要素であると同時に、労働が持つもう一つの機能とは、既に本コラムの前編で述べたように、物語の供給である。時間の経過の雄大さを、何も思考せずに、そして何の活動にも従事せずに、ただ無自覚的に傍観することに耐えられない我々は、労働という物語に参加することで、自意識を正気に保てるのだ。

労働は、従って、少なくとも二つの機能を兼ね備える。だが、人工知能にまつわる紋切り型の物語は、後者――つまり、物語の供給源としての機能――を、頑なに視界から排除したまま、もっともらしさだけを振りかざして社会に流通している。

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