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成年後見制度 介護

86歳女性を連れ去り口を閉ざす成年後見制度「政府委員」

成年後見制度の深い闇 第15回

制度の「闇」が詰め込まれた事件

〈 ……本人の現状を考えますと、本人を苦しめる以外、何の治療効果もありません。周りの関係者が勝手に本人を人質にするような行動を取られることは、本人に苦しみを与え、結果的に認知機能が低下することになります…… 〉

〈 ……認知症の介護の基本は、記銘力の低下や見当識の低下等の認知機能を改善することよりも、大切なことは感情面が落ちついた状態にあることです。現在生じていることは、認知症患者にとって最悪の状態を演出されております…… 〉

本人も同居する三女も、一切知らない間に裁判所に成年後見人をつけられ、区役所には一方的に「虐待を受けている」と決めつけられて、成年後見人の弁護士らに、どこかへ連れ去られてしまった東京・目黒区在住の澤田晶子さん(86歳・仮名)。

冒頭の一文は、晶子さんを診察した精神科医が、専門家の立場から「連れ去り」の与える深刻な影響についての懸念を表明したものだ。この文章は東京家裁にも届けられている。

これは、あまりにもひどい事件である。

結果を見れば、裁判所、後見人弁護士、そして区役所。公の権力を持った者たちが、よってたかって、ある母娘の生活を破壊する形となったのだ。そして、このひとつの案件の中に、成年後見制度の「闇」といっていい、いくつもの問題が複雑にからみあっているのである。

勝手に後見人をつけられたことでショックを受け、涙を流す「連れ去り」前の母・晶子さんの動画は、Youtubeでも視聴できる(https://youtu.be/pdbaCp7m0ZA)。

私は、これまでにもメディアを通して、澤田さん母娘を襲っている、理不尽すぎる状況について情報を発信してきた。それらを論点ごとに整理してみると、こうなる。

(1)「明らかに重度認知症とは言えないにもかかわらず、本人の意思に反して勝手に後見人をつけられた」という点
「重度認知症と勝手に判定され、財産権を奪われた」母娘の涙の訴え
(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53465)

(2)「東京家裁が、法律に定められた手続きをスキップする『手続き飛ばし』を行い、調査も精神鑑定もしなかった上に、即時抗告に必要な通知も期限内に届けなかった」という点
「86歳女性に勝手に後見人をつけて連れ去った冷酷な裁判所」
(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53606)

(3)「家族間のトラブルの一方に後見人と目黒区役所が加担し、母・晶子さんを同居する三女から引き離して連れ去ってしまった」という点
「役所が虐待と決めつけた86歳女性が連れ去られるまで」
(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53696)

母・晶子さんが、自宅で同居していた三女・光代さん(50歳・仮名)の前から忽然と姿を消してから、すでに3ヵ月が経過している。

この「連れ去り」は、家族間の対立の一方の当事者である長女・次女と、姉たちに異常なまでに肩入れしている後見人弁護士や目黒区役所が連携しておこなったものだ。

だが、冒頭の文章で医師が深刻な懸念を表明しているように、それが母・晶子さんの健康や精神衛生によい結果をもたらすとは、到底考えられない。

この医師は他にも、母・晶子さんと三女・光代さんの穏やかな日々を、こんな風に書き記している。

〈 三女が仕事を辞め、母(注・晶子さんのこと)の介護を始め、一緒に散歩や買い物を行っている。以来、本人は安心から穏やかになっている 〉

〈 夜間は良眠で、仕事を辞め母の介護をしている三女と短歌を口ずさみながら砧公園を良く散歩していると、ニコニコと話される 〉

〈 現段階では安定し認知症の軽度にある 〉

だが、三女の問い合わせに対し、後見人の弁護士は、母・晶子さん本人の意思で、自宅から他に移転したものであり、「連れ去りではない」と一貫して否定しているという。

今回は、この弁護士のとっている一連の行動に注目して、報じてみたいと思う。

 

弁護士は「内閣府の審議会」臨時委員

そもそも、成年後見人は、被後見人の代理として、被後見人の立場に立って行動せねばならないと法律で定められている(民法858条など)。

今回の事件に登場する弁護士は、はたしてどうなのか。読者の判断をぜひあおぎたい。

母・晶子さんの後見人を務めているのは、土肥尚子弁護士と川戸万葉弁護士の二人だ。

二人は同じ弁護士事務所の所属で、このうち土肥氏は、内閣府の審議会「成年後見制度利用促進委員会」の臨時委員を務め、成年後見制度の利用を推進する立場から積極的な発言を行っている。成年後見に関する著作も複数、出版している。

つまり「ごく一般の弁護士」というよりは、「成年後見制度の専門家であり、かつ政府によるその推進の旗振り役」でもある、重大な責任を負っている人物と言っていい。

そんな土肥氏が、現状の成年後見制度のさまざまな問題点が一挙に噴出したような今回の案件にかかわっているのである。私は問題の「連れ去り」の経緯を含め、いくつかの論点について、土肥氏に質問状(記事末尾に掲載)を送り、取材に応じてほしいと求めた。

だが、土肥氏は「個別案件については答えられません」「お答えできません」と頑なに繰り返すだけで、制度の専門家として誰もが納得できる説明を明らかにしようとはしなかった。

なぜ弁護士が本人宛の「通知」を

土肥氏の一連の行動の中で、まず大きな疑問符がつくのが、東京家裁の村井みわ子判事が「手続き飛ばし」によって、一方的な審判を下した直後のことだ。

家裁は、ある人に後見人をつける審判をした後、その結果を記した「通知」を被後見人(後見人をつけられた人)の居所に届けることになっている。

「居所」とは、被後見人がいるところ、通常なら自宅ということになる。だが今回、母・晶子さんへの通知は、自宅には届かなかった。

土肥氏が三女に説明したところによると、家裁は、晶子さんへの通知書を土肥弁護士の事務所に発送し、「そちらから晶子さんに渡してほしい」と依頼したというのだ。

これが、まずもっておかしいのである。

当然ながら、母・晶子さんは当時、弁護士事務所に住んでいたわけではない。それどころか、自分に後見人をつけるという裁判所の判断が下り、土肥氏が自分の後見人として選任されていることも、一定期間後にその審判が確定するような状況に置かれていることも、まったく知らなかった。

後見開始の審判に対しては、被後見人本人やその家族が、異議を唱えて「即時抗告」を行うことができる。今回ならば、母・晶子さん本人にも、三女・光代さんにも、即時抗告を行う権利はあった。

つまり、土肥氏が後見人に「つつがなく」就任するかどうかは、この時点では決まっていなかったはずなのだ。それなのに、利害が対立するかもしれない弁護士事務所に、家裁が通知を発送したというのなら、明らかにミスである。

職業倫理に照らせば、その問題点を指摘せず、「私から渡します」と要請を受け入れたとする土肥氏の対応にも、首を傾げざるを得ない。

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