男子マラソンは「新時代」に入ったのかもしれない

福岡国際マラソンの結果から

素晴らしい走り

12月3日の福岡国際マラソン。大迫傑の走りは素晴らしかった。

軽やかな走りが30kmを過ぎても変わらない。さすがに最後の5kmでは表情こそ厳しくなったが、走りは乱れず2時間7分19秒という日本人歴代5番目の素晴らしいタイムで3位に入り国内を沸かせてくれた。
 
日本人が2時間8分を切るのは2年ぶりで、過去に13人しかいない。さらに、2010年以降では12年の藤原新、15年の今井正人のみで、久しぶりの好記録。ファンの皆さんも喜んだが、最も喜んだ、いやホッとしたのがマラソン関係者だっただろう。

 

記録が証明するように、男子のマラソンは低迷が続いており、いまだに2時間6分台を出したのは過去3人のみ。それも2002年以前の話で、もちろんその選手たちは引退してしまっている。つまり現役の選手たちは15年前の記録をいまだに更新できていないということ。

その間に世界記録はどんどん更新され、現在では2時間2分台という恐るべきタイムとなっている。さらに30人以上が2時間5分を切っている中で、日本選手の活躍ができる余地は現状では見出せていないのが正直なところである。
 
そんな日本マラソン界に久しぶりに光を差し込んだのが大迫の走り。年齢的にも26歳とまだ若く、トラックのスピードもあるのでまだまだ伸びしろは十分だ。さらにこの福岡では23歳の上門大祐、26歳の竹ノ内佳樹など新しい若手が6位、7位と好記録で入賞し、それぞれ東京五輪の最終予選となるグランドチャンピオンシップ出場権を得た。こんな若手の躍進を感じることができたのも好材料だろう。

なにが起こったのか

低迷続きであったマラソン界に何が起こったのか。決定的なことは分からないが、ひとつ言えるのは選手たちの間でマラソン志望者が増えたということのようだ。

以前であれば日本の実業団に入ると、メインイベントは新春に行われる全日本実業団対抗駅伝であり、マラソンをやるのはその付帯行為のような位置づけであった。つまりどこまで行っても駅伝のついでにやるようなもので、マラソンのトレーニングを思うようにできなかったのは、以前にこのコラムでも取り上げたとおり。

しかし時代は変わり、最近はマラソンを意識する選手やチームが増えてきたということ。それにはやはり2020年東京オリンピックというのが大きく影響しているようだ。
 
地元開催のオリンピックということで、企業や国民からも期待の目が注がれる。だが、陸上の中長距離で上位に入る可能性があるのはマラソンくらい。それでも厳しいことは書いたとおりだが、まだ可能性は残されている。そして国内では依然人気の高いマラソン。ここを目指す選手が生まれる状況ができていたということだろう。

そこに大迫のように、実業団から飛び出し、海外のチームでマラソンに絞って活動する選手が現れた。これは他の選手やチームを大いに刺激したはず。そういう意味でも大迫は日本国内マラソン界に大きなインパクトを与えたといっても言い過ぎではない。
 
現在、マラソンで勝機を得るには2時間5分で走るスピードが必要といわれている。それはまだ日本人が走ったことのない世界。それには、もともとのスピードがなければ到底たどりつかない。だからこそ、「1万m27分台のスピードがない選手でなければ、これからのマラソンでは走れない」と言われるのだ。そういった意味で大迫はもちろんだが、これからも優秀な1万mの選手がマラソンに転向してくることが必須だろう。1万mを軽視する訳ではないが、そこで走れる選手をマラソンに送り込むような強化策が求められる。
 
ともあれ、少し光が差し込んできた日本男子マラソン界に期待したいところだが、ひとつだけ大迫のインタビューで気になる箇所が……。「日本独特の緊張感があり楽しむことができた」というくだり。僕には「日本のレースは海外のレースと違って妙な緊張感がある」と聞こえ、地元という意味ではなく、日本の大会やマラソンを取り囲む社会的な環境についてチクリと皮肉を言ったように思えた。

海外で活動している彼ならではのコメントかなぁと思っていたが、皆さんはどう思われただろうか。いずれにしても、大迫の成功に今のトレーニング環境が影響していることを否定できる人はいないだろう。
 
もちろん我々は、どこで誰と練習しようとも、彼が彼らしく走り、東京で活躍してくれることに期待している。

ぜひ、大迫も含めた、新しい盛り上がりを感じる国内マラソン界に、これからワクワクさせて欲しいと願っている。