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「ほのぼの8コマ漫画」が15万部のヒット作となったワケ

『大家さんと僕』矢部太郎に訊いてみた

お笑いコンビ・カラテカの矢部太郎が描いたコミックエッセイ『大家さんと僕』。87歳の大家さんとの一風変わった「二人暮らし」の日々を描いたこの作品は、発表されてすぐに業界関係者にも絶賛され、現在15万部を超えるベストセラーとなっている。

矢部は8年前に一軒家の2階にある物件に住み始めた。1階ではおばあさんの大家さんが独り暮らしをしていた。家賃を手渡しして、話しているうちに意気投合して、一緒にお茶を飲みに行ったり、旅行に出かけたりするほどの間柄になった。

大事件が起きるワケでもない本作が、これほど多くの人に受け入れられたのはなぜなのか? 著者である矢部に訊いてみた。

きっかけは、あの人の一言

――まず、この作品が生まれたきっかけを教えてください。

作品の舞台になっているお家に引っ越してから、大家さんと仲良くなって、一緒に出かけたりするのが日常になっていたんです。それで、新宿の京王プラザホテルでご飯を食べて、1階のラウンジみたいなところでお茶をしていたら、たまたま、知り合いの漫画原作者である倉科遼さんを見かけたんです。

そこで倉科さんに挨拶をしたら、大家さんを僕の祖母だと思ったみたいで、「孝行してるね」って言われたんです。それで「いやいや、違うんです。大家さんなんです」って説明したら、すごく興味を持っていただいて。

 

「『孤独な青年と孤独な老人のふれ合い』というドラマだね。面白いから、二人の物語を僕に書かせてくれないか?」

そう言われて、僕にそのプロットを書いてほしいと頼まれたんです。それで、自分でもなんでそうしたのかよく分からないんですけど、4コマ漫画みたいなものを描いて持っていったんです。

そうしたら、倉科さんにその漫画を褒めていただいて。「これはすごくいいね。これを本にしよう」って。倉科さんも僕と同じよしもと(クリエイティブ・エージェンシー)に所属していたので、マネージャーさんにそのことを話してくれて。それで、あれやこれやとあって、『小説新潮』で連載をさせてもらうことになったんです。

ありがたいことにその連載も好評だったんですが、まさか単行本になってここまで売れるとは、自分でも驚いています。担当の方からは「大家さんと同じぐらいの世代の方にもよく買っていただいているようです」と教えてもらいましたが、ご高齢の方にも受け入れられやすい絵柄と内容が、ヒットの要因かもしれないな、と思っています。

8コマ漫画を選んだ理由

――この漫画は、大家さんに読んでもらうことを意識して描かれていたそうですね。

そうですね、大家さんが読めない漫画だったら、描いた意味がないと思っていたので、なるべくシンプルにしました。……でも、それは後付けかもしれないですね。単に僕の画力では、こういう風にしか描けなかったんですよ。

ただ、倉科さんのところに持っていったのは4コマ漫画だったんですけど、それが掲載時には8コマになったのには理由があるんです。

漫画を描くうえで、やっぱりプロの編集者にアドバイスをもらおうと思いまして、新潮社のウェブ漫画サイト『くらげバンチ』の編集長で、『月刊コミック@バンチ』副編集長の折田(安彦)さんを訪ねたら、「4コマは難しいんです、オチにエッジがないとダメなので。でも8コマだったらもう少しゆったりと話を進められるから、8コマにした方がいいと思います」と言っていただいたんです。確かに、4コマだったらこの空気感は出せなかったでしょうね。

あと、僕は木下晋也さん(漫画家。代表作は『ポテン生活』)の漫画が大好きで。あの人は8コマ漫画の開祖みたいな人だと思っているんですけど。木下さんの作品を見て、その構造をノートに写したりして、参考にさせてもらいました。

――具体的にはどういうところですか?

4コマだったら「起承転結」とか「起起転結」とかパターンがあると思うんですけど、8コマだったらどういうパターンがあるのかな、というのをちょっと研究したんですね。『小説新潮』掲載時は1話4ページの連載だったんですが、そのなかで、1ページごとに同じパターンにならない方がいいのか、逆に同じにした方がいいのか、とか。描き始める前にそういうところを学びました。

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