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羽生不在のGPF2位、宇野昌磨を襲った「的外れなプレッシャー」

彼を責める空気こそが、大きな問題だ

「宇野は絶対にオリンピックで勝てませんよ。勝てるはずの試合を落とすようでは、大きな試合で絶対勝てない。勝負とは、そういうものです」
 
グランプリファイナル男子フリー終了後、宇野昌磨が2位という結果に終わって、犬猿の仲のスポーツ紙記者がそんなことをいうので、少々反論を書いてみたいと思う。

グランプリファイナルは世界一決定戦ではない

まず、グランプリファイナルという試合をどう捉えるか、の違いがあるだろう。

日本では放送局の宣伝もあってか、スケート界ではとても重要なタイトル、と考えられているかもしれない。

「タイトルは取れるときにとっておいたほうがいい。その最上のチャンスを、宇野は逃した」

そんな声もあった。確かにファイナルは、前半戦の大きな山場ではある。しかし、ゴールデンタイムに大々的に放送され、新聞各紙に大きな見出しが躍るのは、日本くらいのものだろう。海外の選手にとっては、グランプリシリーズはシーズン前半の試運転、調整の場でしかない。もっと大切な試合は、オリンピック選考が熾烈な国ならば各国国内選手権であり、その先は例年ならば3月の世界選手権、今季ならば2月の平昌オリンピック。

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今回、ファイナル進出を逃した有力選手が多いことも話題になったが、海外選手にとってはほとんど問題ではないだろう。日本びいきの選手が来日できないことを悲しんだりはしただろうが、トップ選手のシーズン通しての戦略において、この試合に出られないことが大きく不利にはなることはない。グランプリファイナルは世界一決定戦などでは、決してないのだ。

もし宇野が、まだメダル候補のひとりと目されていないルーキーだったら、ここで出来うる限りの好成績を上げ、五輪前にポジションを得ておくチャンスだったかもしれない。しかし彼は既に世界銀メダリストであり、ファイナルで存在をアピールする必要もなかった。

2006年トリノ五輪シーズン、荒川静香はグランプリ2戦ともに3位で終え、ファイナル進出を逃している。この時の彼女は、「選手にはそれぞれ、一年通しての調整の仕方がある。前半の試合で失敗したくらいで責めないでほしい」とこぼしていたものだ。荒川がこの後、全日本、オリンピックと徐々に調子を上げていき、一番大事な試合で有終の美を飾ったことは周知のとおりだ。

ミッシェル・クワンも、前半のスケートアメリカではパッとしない演技を見せ「今年のクワンはいまいちか」などと思わせておき、最後の世界選手権では別人のような女王オーラを放って見せていた。世界のトップを狙う選手にとって、グランプリシリーズ、ファイナルは、必死になって勝つべき試合でも、ここで完成形を見せるべき試合でもない。

また、2010年バンクーバー五輪シーズンの、ファイナル後。この年の男子シングルも「優勝候補が10人はいる」と言われる混戦だったのだが、ある日本のオリンピアンがぴたりと金メダリストを当てたことをよく覚えている。

「優勝は、たぶんエヴァン・ライサチェクです。グランプリファイナルの様子を見ていて確信しました。選手たちの多くは、目の前のファイナルで勝つための練習をしていた。でもエヴァンだけは、2か月後のオリンピックを見据えた調整を、すでファイナルの公式練習からしていたんです」

 

スポーツ紙が取材している人気スポーツ――相撲、野球、サッカーなどは、一試合でも多く勝ち星を積み上げることが必要になる。試合ごとに敗因を丁寧に分析する記事が書かれ、読まれるのだろう。しかし、フィギュアスケートは違う。オリンピックまたは世界選手権、シーズン最大の一試合で勝てば、総取りなのだ。ほかのすべての試合で負けていたってかまわない。日本を代表するコーチ、佐藤信夫氏も、よくこんなことを嘆いていた。

「記者の皆さんは、試合のたびに、あのジャンプはどうなのか、ここはどうしてダメだったのか、と細かく聞いてきますね。もうちょっと長いスパンで選手を見てもらえないものでしょうか」

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