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読書人の雑誌「本」

「愛しき好漢たち」を活写した決定版『水滸伝』の魅力

盛り場で語り継がれた物語

盛り場で紡がれた「語り物」の息もつかせぬ迫力

水滸伝』は、物語時間と重なる北宋末(11世紀末~12世紀初め)から元(1271~1368)にかけ、盛り場で行われた「語り物」を母胎とする。

この「水滸語り」が集大成され白話はくわ長篇小説として成立したのは、14世紀後半の元末明初だが、全百回からなる最古の刊本が刊行されたのは、約二百年後の明末だった。以後、百二十回本や七十回本など種々の異本が現れた。

講談社学術文庫で刊行中の『水滸伝』(全五巻)は、講釈師が鳴り物入りで吟じたり歌ったりした詩や美文(装飾的な文章)を、「その証拠に次のような詩がある」という形で、ふんだんに挿入するなど、語り物の痕跡を如実に示す、最古の刊本たる百回本を底本とした。なお、こうした語りの臨場感を高める詩や美文には、その雰囲気が汲み取れるよう、すべて原文や訓読に合わせ現代語訳を付した。

『水滸伝』世界は数百年の間、地底に封じ込められていた百八人の魔王が解き放たれ、天空に飛び散るところから開幕する。魔王たちが地上世界に姿をあらわすのは、その40年余り後の北宋末、邪悪な重臣(四悪人)が権勢をふるう、放蕩天子徽宗ほうとうてんしきそうの時代だった。

『水滸伝』の前半3分の2に当たる第71回までは、不穏なこの時期に、魔王から転生した百八人の好漢が続々と反逆の砦たる梁山泊に集まり、固い信義に結ばれた任俠軍団を結成して、悪なる権力に敢然と立ち向かう姿を描く。このくだりが『水滸伝』のハイライトであり、抜群の武勇や特技をもつ好漢たちを巧みに関係づけながら、次々に登場させる『水滸伝』の巧緻な語り口は圧巻である。

たとえば、開幕後まもなく登場する剛勇無双の好漢、魯智深は、寄る辺ない芸人父娘を痛めつける、悪辣なごろつき商人を殴り殺して凶状持ちとなり、五台山に入って出家する。しかし、奔放な魯智深は寺暮らしに堪えられず、大酒を飲んで大暴れし、彼の秘められた聖性を見抜く寺の長老もかばいきれず、寺から出さざるをえない。

 

このくだりで描かれる魯智深の破壊力の凄まじさは、以後に展開される『水滸伝』世界の風雲ただならぬ様相を鮮烈に象徴している。

魯智深を起点に、阿修羅のように闘う林冲、梁山泊の最初のリーダー晁蓋(百八人の好漢に数えられない別格の存在)、軍師の呉用、晁蓋の死後、第二代目リーダーとなる宋江、虎退治で名高い武松等々が有機的に結び付きつつ登場し、しだいにメンバーをふやして強力な梁山泊軍団を形づくってゆく展開には、息もつかせぬ迫力がある。

ユニークな特技を持つ好漢が続々登場

後半の3分の1では、官軍との戦闘を経て、宋江の主導により、梁山泊軍団が招安(朝廷に帰順すること)され、官軍として遼征伐、方臘征伐に出撃、激戦のあげく勝利するが、戦死者続出、壊滅に至る過程が描かれる。『水滸伝』はこうして梁山泊軍団の輝かしい興隆期から悲劇的結末まで、見事にたどりきった傑作にほかならない。

物語展開の迫力に加え、『水滸伝』の魅力は、百八人の好漢の各人各様の姿や軌跡を、躍動的な筆致で描きあげているところにある。ちなみに、百八人の好漢のほとんどは犯罪者となって表社会から弾きだされ、表社会の正義とは次元を異にする、大いなる正義を求めて戦う共同体、梁山泊を作りあげてゆく。

彼らは、みずからの力や特性をフルに発揮して、悪しき現実に対抗し、梁山泊のモットー「替天行道(天に替わって道を行う)」を実現すべく奮闘するのである。

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