『オンナの値段』みんな買ってね♡
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もうオカネなんていらないなんて、言わないよ絶対

『オンナの値段』発売記念書き下ろし!
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鈴木涼美さんが現代ビジネスで連載していたエッセイが、『オンナの値段』として書籍化されました! 鈴木さん自身の「オカネの使い方・稼ぎ方」についての1万字に渡る書き下ろし原稿も収録、すでに連載を読んでいた方も必読です。今回は書籍発売を記念したスピンオフ・エッセイを公開!

鈴木涼美さん記事バックナンバーはこちら http://gendai.ismedia.jp/list/author/suzumisuzuki

「オカネ持ってるいいオンナ」って証明したい

「恐れ入りますが、高額になるため、お引き出しの理由をお伺いできますか?」

冷静な制服を着た銀行のお姉さんにそう聞かれて、私は完全に凍りついた。350万円引き出したのは、その翌々日に控えたホスクラのイベントのタワー代金だったのだが、引き出す理由を聞かれても困る。

払わなきゃいけないから。払いたいから。私がやらないと他の子がタワーやることになっちゃうから。彼に頼られたいから。彼が好きだから。ナンバーワンになって欲しいから。お前のおかげだよって言われたいから。イベントの最後に彼が歌うラストソングを真横で聞く権利が欲しいから。イベントの後に彼と彼の同僚みんなと打ち上げに行きたいから。その後、私の家に帰って来て欲しいから。他のお客さんの家に帰って欲しくないから。

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違う。350万円ポンと渡してカッコつけたいから。私はこんなにオカネ持ってるいいオンナだって証明したいから。オカネ持ってるってことは稼げるっていうことで彼を指名する他の女の子よりずっと稼げるってみんなに思い知らせてやりたいから。稼げるっていうことは社会に求められてるっていうことだから。稼げないブスだと思われたくないから。まだまだ現役でいたいから。他の子が苦労して苦労して結局成し得なかったことをいとも簡単にして見せたいから。

理由は思いつくような気がしたし、どれも真実ではあったが、それを一から十までまともな制服を着たお姉さんに打ち明けるのは気が滅入る。それに、タワーといっても8万円くらいの設置費で積まれたグラスのてっぺんから注ぐ予定だったのは、1本3000円くらいのスパークリングワイン30本で、何度計算しても総額20万円にも満たない代物だった。とても350万円の必要性を伝えられるようなものではないし、かといって、その金額を支払うことで、20万円分のシャンパン以外に何が手に入るのか、私自身にもよくわからなかった。

 

「すみません、社内預金に移し替えます」

適当なことを言ってその場をしのいだ。嘘だけど。社内預金という言葉がつい口をついて出たのは、そのつい1ヵ月前に、社内預金に入っていた200万円を銀行口座に移し替えたからだった。その後会社を退社するタイミングで、もちろん会社の福利厚生の一部である預金制度も解約されたし、私がその日に持ち帰る350万円はその日の夜にはホストクラブのキャッシャーに預けられてしまう段取りだった。ホストは、イベント当日まで入金がないのを嫌う。気まぐれでばっくれられたら、自分のイベントが台無しになってしまうからだ。

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