不正・事件・犯罪

大物地面師が暗躍した「世田谷5億円詐取事件」の真相

【スクープリポート】地面師を追う➀

土地を買うために大金を振り込んだのに、そのカネは闇に消えた……。東京で頻発する、にわかには信じられないほど奇怪な事件、それが「地面師事件」だ。APAホテルや積水ハウスも騙しとられ、今年、大きな注目を集めることになった。

今回、東京・世田谷を舞台にまた新たな地面師事件が発覚した。ジャーナリストの森功氏が、その真相を追うルポ・第一弾――。

大物地面師も登場

ギリギリのタイミングだった。12月2日土曜日の午後7時過ぎのことだ。町田警察署刑事課の捜査員が、東京都内の関係先を一斉捜索した。そのなかに意外な対象者がいたという。内田マイクの関係先だ。

「北田と連絡がとれない。どこにいるのか」

夫人から自らの家宅捜索を知らされた内田は焦り、心当たりのあるところへ片っ端から電話をかけたという。それが瞬く間に広がり、町田署が手掛ける事件にも内田がかかわっているのか、という噂が広まった。

 

地面師のあいだでは「町田の事件」と呼ばれるこの件。町田署は警視庁捜査2課と合同で、いよいよ本格捜査に踏み切った。すでに4人が逮捕されているという。おまけに家宅捜索の対象とされた内田マイクは、都内で暗躍する詐欺集団の中でも、頂点に立つ大物地面師であり、斯界の有名人である。

2年前の2015年11月、杉並区内の駐車場オーナーになりすまして土地を売却、2億5000万円を詐取した事件で逮捕・起訴された。17年1月には1審の東京地裁で懲役7年の実刑判決が下ったが、当人は控訴して現在は、保釈中の身だ。

そんな大物地面師が焦ったという町田の事件。この数年、立て続けに起きている不動産詐欺の中でも、目下、警視庁が本腰を入れている事件として、関係者の注目を集めてきた。

港区赤坂の地主になりすまし、ホテルチェーン「アパグループ」から12億6000万円を騙しとった11月29日の地面師詐欺摘発から間髪を入れず、当局が切り込んだといえる。年内に起訴まで持ち込める時間切れ間際に、その詐欺グループの主要メンバーを逮捕し、町田署に勾留している。

本来、被疑者を逮捕すれば記者発表するのが常道だが、警視庁は事件をすぐに公表しなかった。そこには慎重にならざるをえない理由もあった。

「焼身自殺しようかと思った」

「騙されてから2年半、ようやくここまでたどり着いた。この間、警察も信じられなくなり、いっそのこと、町田署の前でガソリンをかぶって焼身自殺をしようかと思ったくらいでした。本当に長かった」

被害者である不動産業者、津波幸次郎(仮名)に聞くと、そう本音を漏らした。

事件が解明へと動き出したのは今春だ。それまで捜査はかなり迷走し、紆余曲折があったが、警視庁はようやくこの事件の詐欺グループの主犯を名うての地面師、北田文明(別名・明)と睨んで捜査を進めるようになる。

その捜査上の問題については稿を改めるが、この事件には、アパ事件で逮捕された元司法書士の亀野裕之も登場する。また前述したように内田マイクの影もちらつき、他にも陰で糸を引いている地面師が大勢見え隠れする。目下の被害額は5億円。奥行きの広い事件である。

ことの始まりは15年4月半ばだった。都内で不動産会社を経営する津波が、かつてNTT寮だった土地・建物の売却話を知り合いの不動産ブローカーに持ちかけられたことに端を発している。その物件は東急上野毛駅に近い世田谷の好立地にあり、津波は建物をリフォームすればマンションとして使えると考えた。ブローカーは津波に対し、5億5000万円の買い取り価格を提示してきたが、津波は5億円なら買うといい、その値段で折り合ったという。

物件の持ち主であるAから犯行グループのBがいったん物件を買い取り、津波のような不動産業者のCに転売する。

いわば「なりすましの存在しない不動産詐欺」であり、犯行グループは持ち主と不動産業者の仲介者として登場し、最終的に不動産業者から振り込まれた購入代金をせしめる。

地面師事件では、概して詐欺集団が地主のなりすましを用意し、不動産会社に売りつけるというパターンが多いが、このケースは少し違う。ごく簡単にいえば、地主は本物だが、仲介者が、最終の買い取り業者から売買代金を騙し取るという手口だ。

そこで仲介業者として登場するのが、「東亜エージェンシー」なるペーパー会社だ。

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