経済・財政

現金至上主義者はこれからの時代「社会悪」となるかもしれない

おカネの未来に関する話をしよう
三戸 政和 プロフィール

国に収入が入ることがいいことなの?

ところで、1万円を作る原価は25円程度だといわれている。その差額はどうなるのか不思議に思わないだろうか? 実は、ここにこそ「現金主義者は悪」という筆者の根拠がある。まずはその「構造」を明かそう。

たった25円のものが、1万円の価値を生み出すのは、日本という国家に信用があるからだ。日本国家が実質的に発行する貨幣は、国家の管理のもとで大暴落はしないだろうという、なんとなくの信用の積み重ねがこの「価値」を生んでいる。

昔から政府は、通貨を発行することで、その原価と実際の価値の差額を「利益」として懐に入れてきた。現在、その構造はとても複雑になっているが、ごくごく単純化していうと、政府は現金を発行することで、少なからぬ「利益」を得ている(これは、「通貨発行益」と呼ばれている。厳密には、日銀が現金で国債を買い入れ、その金利収入が通貨発行益に該当するが、ここでは単純化して説明している)。

つまり、現金が流通すればするほど、国は「利益」を得ることになるのだ。日本では、GDPの0.4%で約2兆円ほどが通貨発行益として計上されているといわれる(実際には、通貨を発行する日本銀行の利益となり、それが国庫に納付され、国家のものとなる、という流れだ。繰り返しになるが、単純化していることをご容赦願いたい)。

国の収入を支えているのであれば、国民の利益につながる…だから現金主義の方がいいのではないか、との反論もある(実際、国の中央の収入が減るから、脱現金には反対だという声は各国でも上がっている)。

しかし、それこそ思考停止である。

そもそも、国に入るお金が増えることがいいのだろうか。ご承知の通り、民間と比べて、行政や自治体はお金の使い方が不得意で、かつ不透明だ。入ってしまえば使い方が分からなくなる国家に納付するくらいなら、まだ競争原理の働くカード会社に利用料を支払ったほうが、経済発展のためにはいいに決まっている。

カード会社は、株式市場に上場して、公明正大な決算書をさらしているわけだから、仮に株主だけが不当に儲かっているようなら、違うカード会社を利用すればいいのである。もちろん、株を購入して、あなたが株主としてより有利な配当を受けることも可能である。

 

国だって、現金がないほうがいい

国への「上納金」として通貨発行益を支払うのは損であるようにも書いたが、実は国側からしても、現金を使ってもらいたくない事情がある。

「地下経済」という言葉をみなさんも聞いたことがあると思う。現金が広く流通することによって、脱税や汚職、麻薬取引など犯罪に現金が使われる可能性が高まっていく。レジのないお店が、売上を現金でもらって税務申告時に売上計上していなかったら、これは立派な脱税になる。また、汚職などの表に出せないお金を銀行で送金して履歴を残すバカはいない。

このように、通貨を発行している国家ですら把握できない現金が生まれ、市中に流通していくのである。

日本にも地下経済は存在しており、その規模は最大でGDPの9.2%(約50兆円)にものぼるといわれている。強引な表現だが、日本人10人に1人の給与が、地下経済から支払われていることとなる。

特に中小・零細企業、個人事業主では、先ほどの例のように、節税と脱税の間を右往左往しながら税務申告をしている企業も多い。当然、脱税となれば、立派な地下経済の金額となる。つまり、これらの現金の流れを「電子決済」の形で正確に追うことができるようになれば、国家の税収が上がり、現金を管理するコストは下がり、地下犯罪の数も減少するはずである。

実際に、米国ではすべてを電子決済にすれば、税収が10兆円上がるという数値もでており、これを米国と日本の歳入割合で単純計算すれば、日本でも5~8兆円の税収増が見込まれることになる。消費税を1%あげると2兆円の歳入があがるといわれていることから、電子決済にすれば、消費税を現行の8%から10%(4兆円の増加見込み)にしなくてもいいとも言えるのだ。