核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長(Photo by gettyimgaes)
防衛・安全保障 現代新書

「核兵器廃絶」という世界の潮流になぜ安倍政権は逆行するのか

人類滅亡まで、あと2分半…
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今年のノーベル平和賞を受賞したのは、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)だった。夏には核兵器禁止条約が採択されるなど、世界的に見れば新しい潮流が生まれ、北朝鮮の問題が危機的状況を迎えた今、トランプ政権でさえ制裁や圧力強化と並行して「対話の糸口」を模索している。にもかかわらず、なぜ安倍政権は強硬姿勢にこだわっているのか。

12月13日刊行予定の『核兵器と原発――日本が抱える「核」のジレンマ』(講談社現代新書)の著者、長崎大学核兵器廃絶研究センター長・鈴木達治郎氏による緊急レポート。

「核抑止論」は幻想に過ぎない

北朝鮮の核問題がまさに危機的状態に入っている。度重なるミサイル発射と核実験は、国際社会としてとても許容できるものではない。

一方で、北朝鮮の「挑発」活動に対し、米日韓政府はこれまで以上に軍事圧力を強めており、今までにないほどの緊張関係が続いている。はたして、「核の傘」に依存しつつ、軍事圧力と制裁だけで、北の核危機を乗り越えることができるのだろうか。

筆者も参加した2017年8月末のパグウォッシュ会議世界大会の作業部会では、北朝鮮問題について、危機感を持ちながらも冷静な分析を重ねて提言を策定した。概要は以下の通りである。

(1) 北朝鮮の脅威について、ミサイル防衛の有効性等、誤った認識に基づく議論も多く、客観的な評価が必要

(2)米国・北朝鮮が軍事行動に出る可能性は極めて低いが、事故や誤解による「偶発的衝突」の可能性がもっとも危険

(3)その可能性を最小にすべく、民間外交等も活用した情報交換、挑発行動の抑制の検討をすべきだ

(4)「危機管理への対応」が米中間で議論され始めたことは評価できるが、他関係国および北朝鮮との接点も持つ必要がある

(5)その上で、長期的な北東アジアの平和と安全保障の確立に向けた「枠組み」の議論を始めるべきだ。北朝鮮と米国の「平和協定」締結を最終目標に、北東アジア非核兵器地帯構想など、地域全体の安全保障問題について、検討を始めるべきだ

そこで日本の対応である。日本政府は、「米国の抑止力強化」を強烈に要請しており、対話ではなく圧力のみで解決しようとしている。そもそも、2017年夏採択された核兵器禁止条約の交渉に参加もせず、署名しないことを明らかにしている日本政府に、「核の傘」に依存する安全保障政策を転換する兆しは全く見えない。

唯一の戦争被爆国であり、「核兵器廃絶を希求する国」として、これでいいのだろうか? 第一、「核抑止」は北朝鮮に対して有効なのだろうか? 「北朝鮮の核ミサイルが飛んでくるかもしれない」と恐れているのは、むしろ米国や日韓のほうではないのか? 米国の巨大な核戦力をもってしても、北朝鮮の核攻撃を「抑止できない」可能性があることを、今回のケースは証明している

トランプでさえ対話の糸口を模索しているのに

日本が追求すべきは、「北東アジアの核の脅威の減少」であることは論を俟たない。まずは非核化の目標は決して外さずに、対話の可能性を探ることが望ましい。

米国トランプ政権でさえ、制裁や圧力強化と並行して、「対話の糸口」も模索しているのに、なぜ安倍政権はこうも強硬姿勢に拘泥するのか。日本は、長期的には核抑止に依存しない安全保障の枠組みを北東アジアで実現すべく、具体的な政策の検討を始めなければならないだろう。

 

核兵器禁止条約採択や核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のノーベル平和賞受賞など、世界には新しい潮流が生まれ始めている。今後も日本政府が被爆の実相を訴え、核廃絶を外交の柱としていくつもりがあるのだとしたら、今こそ、この「核抑止依存」の安全保障政策を転換するべきなのである。

たとえば、核兵器禁止条約に参加しない現状でも、オブザーバーとして締約国会議に参加し、日本として禁止条約の支援策を検討することが望ましい。禁止条約に参加していなくても、締約国会議にはオブザーバーとしての参加は認められており(第8条)、会議で日本がこの条約の具体的な支援策を発表することも可能だ。

検証メカニズムの構築支援(第4条)、被害者援助と環境改善への支援(第6条)、国際協力及び援助への支援(第7条)、会議の費用の負担(第9条)等、多方面での支援の道が残されているのである。

日本がこれまで推進してきた、核軍縮・核不拡散教育や各国首脳の「被爆地」訪問を引き続き継続、充実させていく必要もある。

また、核兵器禁止条約の趣旨に賛同を表明し、署名・批准について検討を開始してはどうだろう。

禁止条約は「核兵器の非人道性への懸念」を理念の柱としており、これまで被爆者や日本政府が「被爆の実相を知ってほしい」と訴えてきた声にも呼応するものとなっている。一方、署名・批准については、安全保障環境なども考慮して今から検討を始める、との声明を出すことで、「核保有国と非核保有国の橋渡し役」を務めることもできよう。

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