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止まれ暴走老人!脳を見て分かった「高齢交通事故」急増の理由

ウルトラ高齢社会が直面する深刻な課題
朴 啓彰 プロフィール

運転寿命と健康寿命を同時に延ばす        

前述の通り、日本はウルトラ高齢社会に到達する最初の国であり、世界の範となる高齢者対策を講じる立場にあります。よって、その場しのぎの高齢者講習のマイナーチャンジではなく、大きく変革した方が良いと考えています。

たとえば、3年に一度の高齢者講習ではなく、毎年高齢者講習を行い認知症ドライバーの早期発見の精度を上げるようにするのはどうでしょう。

車検も2回目以降は1年か2年ごとに施行されています。75歳以上の高齢者なら毎年調べるに越したことはありません。

しかし、この期間短縮に関する議論が起こらないのは、全国規模で毎年、高齢者講習を行うことの費用対効果が見出せないからだと思います。

ここで視点を変えて見ることを提案します。

運転だけでなく健康チェックもして、高齢者講習に健康寿命を延ばす対策を加味すればどうでしょうか?

すでに高齢者講習に認知機能検査を実施しているのが現実です。私はこの際、脳のMRI検査も実施すれば良いと考えています。

私は脳ドック診療を生業にしており、すでに4万人以上の脳診断を経験しています。人は血管から老いると言われていますが、最も血管に依存している臓器が脳なのです。

脳は体重の2%以下の重量ですが、血管が運ぶ酸素・エネルギーの約20%を消費する血管依存度が最も高い臓器なのです。

つまり、血管の老いが一番表れやすい臓器が脳であり、脳の老いの変化(脳萎縮や白質病変)を被曝することなく安全にMRIで見ることができます。しかも、日本には全国津々浦々の脳ドック施設で撮影された膨大な脳データが蓄積されているのです。

 

多くの方は、脳ドックは日本にしかないことをご存知ではないでしょう。実は、脳ドックは日本で独自発展した予防医学の分野なのです。ウルトラ高齢社会に突入する日本こそが、健常者の脳の膨大なデータベースを作り得る立場いるのです。

すでに蓄積された脳データを参考にして、高齢者講習から得られる健常高齢者から認知症までいろいろな状態の脳のMRIデータベースを作り上げ、それを活かして安全運転の限界、免許返納の科学的裏付けを行うことが可能になります。

白質病変のレベルもその一つの基準になり得るはずです。白質病変は、高血圧などの生活習慣病やメタボなどの生活習慣の乱れが原因ですから、白質病変に関する健康管理や生活指導をするだけでも脳を守ることにつながります。

脳を守ることが血管を守ることにつながり、それは健康寿命を延ばし、強いては運転寿命をも延ばすことになるのです。安易に免許返納を強いるのではなく、脳を守って安全に長く、安心して幸せな運転生活が続けられるようにすべきです。

長い目で見れば、健康保険や介護保険の軽減にもつながり、毎年実施する高齢者講習の費用対効果が見出されることになります。いわば急がば回れです。

脳の健康管理まで考慮した高齢者講習が――言い換えれば、健康寿命と運転寿命の同時延伸化を目指す高齢者講習こそが――世界独自の脳ドックが発展・普及し、かつウルトラ高齢社会に突入した日本が世界に向けて範を示すことができる高齢者対策であると確信しています。

【参考文献】
1 阿部玲佳, 朴啓彰, 大田学, 木村憙從, 三宅宏治, 金光義弘. “大脳白質病変が認められるドライバーの動体認知機能解析-ダイナミック・ビジランス・チェッカー(DVC)を用いて-”, 交通科学Vol.46, No.2, pp.54-62, 2015.
2 Park K, Nakagawa Y, Kumagai Y, et al., “Leukoaraiosis, a Common Brain Magnetic Resonance Imaging Finding, as a Predictor of Traffic Crashes.”, PLOS ONE, 8(2):e57255, 2013.
3 Nakano K, Park K ,他11名(2)“Leukoaraiosis significantly worsens driving performance of ordinaryolder drivers.”, PLOS ONE, 9(10):e108333, 2014.
4 S. Chihuri, TJ. Mielenz,ed al., Driving Cessation and Health Outcomes in Older Adults, The Journal of the American Geriatrics Society, 64, 332-341, 2016.