日本

日馬富士と貴乃花と相撲の世界について、経済学者が率直に思うこと

「改革」「改革」とは言うけれど…
髙橋 洋一 プロフィール

「無粋」かもしれないが

ここ20年程度について全幕内力士でみると、その勝率は6割以上である。個別の取り組みではいろいろな事情が考えられるが、全幕内力士だと5割が一応の理論値だ。

このデータの出所は、ドイツ人が運営している個人サイトである。なお、勝率は、その場所でだけはなく前後3場所の移動平均をとっている。

この図を見ると、勝率は傾向的には低下してきている。ただし、それが2011年の事件以降に低下しているので、逆にいえば、事件以前にもなにかしらの「疑惑」があったことの証左ともいえる。こうしたデータについて、「疑惑」を否定する側から、千秋楽での勝ち越しのモチベーションということも考えられるのではないかとの反論があがるだろうが、それも分が悪い。

米シカゴ大のレヴィット教授の『ヤバい経済学』(東洋経済新報社)では、1989年1月から2000年1月のデータについて、7勝7敗力士の勝利が高いことを確認した後で、次の場所での取組では彼らの勝率は4割に落ち込み、この2人の力士が次の次の場所で対戦すると勝率5割に戻ると指摘している。こうした現象は、たしかに「注射」システムがあればよく説明できる。

筆者が本コラムで言いたいのは、今の大相撲の年6場所の日程ではすべて「ガチンコ」で行うのは不可能だろうし、これはみんなわかっていることではないか、ということだ。

 

特に、モンゴルから来た力士は、異国の地で怪我でもしたら元も子もないので、そのシステムに加入するインセンティブが高い、とも考えられるかもしれない。また、相撲協会も、ビジネスを考えれば、単純に「ガチンコ」指向を採れないインセンティブがある(年2場所など、いまの組織の大きさからすれば考え難いことなのだろう)。

といっても、相撲協会やモンゴル力士も建前としては「注射」をしてもいいとはいいにくい(そもそもその存在が否定されているのだから)。

いま、その肝心な点を回避しているから、訳がわからず無駄に時間を使って、日馬富士問題の空論が続いているのだ。だから、日馬富士が引退しても、なんの解決にもならないのである。

一方、貴乃花は「ガチンコ」を指向しているようだが、その「改革」の中身がわからない。「ガチンコ」指向なら、年2場所が限界かと思うが、それでビジネスとしてやっていけるのか。言ってみれば、年2回場所の場合、相撲入場料が1階マス席で、現状一人1~1.5万円程度(http://www.sumo.or.jp/TicketTokyo/price_list)なのが、3倍になるかもしれないが、それでも全国のファンをつなぎ止めておけるかどうか。改革というなら、そういったビジネスプランも示してほしいものだ。

もうみんなわかっているはずなのに、テレビではもごもごと煮え切らないと感じるのは筆者だけではないだろう。

なお、こうした議論・データについて、相撲ファンから「無粋なことを言うな」というご批判があると思うが、あくまでこの機会に触れておくべきことではないかと思ったということで、どうかお許しをいただきたい。