国際・外交 週刊現代 歴史

テロリストに悪用されると怖い『クーデターの技術』の中身

悪用されないことを願う…
佐藤 優 プロフィール

ここで何よりも重要になるのが、秘密攻撃部隊が攻撃する対象だ。権力奪取に当たって、〈「赤衛軍は、ケレンスキー政府の存在を考慮に入れてはならない。(中略)戦術的な観点からみれば、共和国評議会、各省庁、ロシア国会は、武装蜂起の対象としては、まったく意味がない。国家権力の中枢は、政治・官僚機構、つまりトーリッド宮殿、マリア宮殿、冬宮にあるわけではなく、国家の神経組織、すなわち発電所、鉄道、電信・電話、港湾、ガスタンク、水道にある」〉という指令をトロツキーが出したことが重要だ。

つまり、都市のインフラや通信ネットワークを暴力的に押さえてしまえば、国家権力は奪取できるということだ。事実、トロツキー指揮下の部隊は、郵便局や発電所、印刷所を次々に占領して、革命を成功に導いた。

イタリアのムッソリーニも、トロツキーと同じ技法を用いて権力を奪取したとマラパルテは分析する。1922年8月にファシストに抵抗して共産主義者がゼネストを起こしたときの出来事だ。

〈技術者と専門労働者によって組織されたファシスト部隊が、公共部門におけるストライキ参加者にとって代わるや、二四時間もしないうちに、黒シャツ隊は、武装した国家の防衛者達―労働総評議会の赤い旗のもとに結集していた―のうえに、すさまじい暴力をふるい、これを蹴散らした。ファシズムが、国家権力を奪取するうえで、決定的な勝利を収めたのは一九二二年一〇月ではなく、その年の八月だったのである〉。

ムッソリーニは都市や地方のすべての戦略地点、つまり、ガス施設、発電所、郵便局、電話局、電信局、橋、駅など国家の技術機関の中枢部分を電撃的に占拠することで、国家権力の奪取を実現したのだ。

現代であれば、インフラもすべてインターネットに組み込まれているので、それを握れば体制を転覆することができる。日本において、物理的な暴力を用いずに、有能な技術者やインフラ構造を把握している専門家を組織化してサイバーテロを行えば、国家機能を麻痺させ、権力を奪取することができるかもしれない。

本書の内容がテロリストに悪用されないことを願う。

『週刊現代』2017年12月9日号より