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年収4桁ワーママの憂鬱「会社の辞めどきがわからない」

A子とB美の複雑な感情【13】

元日本経済新聞記者にして元AV女優の作家・鈴木涼美さんが、現代社会を生きる女性たちのありとあらゆる対立構造を、「Aサイド」「Bサイド」の前後編で浮き彫りにしていく本連載。今回は、第6試合「職場」対決のAサイド。

今回は新卒採用時から10年以上某大手広告代理店で働く高収入ワーママ。出世はなかなかできないものの、手厚い待遇と福利厚生をフル活用し年収は4桁をくだらない「勝ち組」。でもそんな彼女にも思うところはあって……。

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産休中にボーナス150万円

「産休中にボーナス150万とかぽんっと振り込まれてるとさ、さすがに、いいんですかねぇ、悪いですねぇ、こんな楽させてもらっちゃって、って気分にはなるけど」

と、彼女が笑っていたのはもうすでに7年前だ。その後、2回目の産休も経て、昨年、上の娘はやっと小学校に上がった。下の息子が喘息持ちで、まだ3歳であるため、現在まで一部自宅勤務や時短勤務などを併用しながらだが、勤続年数は10年を超えた。

彼女の勤める会社には、勤続10年、20年、30年の節目に通常とは別の有給が与えられる制度があり、活用している人は実は少数だが、彼女は長女の夏休みに合わせて2週間の休みをとった。通常の夏休みと10年勤続休みを組み合わせたのだが、それほど長い休みを取った事例は社内ひろしと言えどもほとんどなかった。

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「小学校上がって、まだまだ子供だけど、やっぱりちょっとずつ、誰々ちゃんと遊びたいとか、どこ行きたいとか、なんか習いたいとかいう意志は出てくる。完全に親の勝手で家族旅行に行けるのってあと何回だろう、とか思うと、休み取ってない人もいて悪いな、とか考えてるのがアホらしいと思って、まるまる12泊でハワイ行った。行き先はどこでもいいけど子供いるから楽で安全なところ」

別に、産休を何度取ろうと、優秀でそつのない彼女の会社での居場所が失われることはなかったし、ダブルインカム前提では、時短で働こうが休職しようが経済的に追い詰められることもない。もともと167センチの長身にスリムだが女性らしい身体付きの彼女を、一目見て気に入らない男性上司というのはあまりいなくて、だからこそ彼女は自分のわがままがある程度とおる職場環境を作れたわけだが、そのぶん、無視や嫌がらせには発展しない、もっとずっとさりげなくそこはかとない女性社員からの負の視線は、無視する術を獲得済みだった。

 

彼女の旦那は、長女が小学校に上がる直前に、数年勤めた外資系の保険会社を退職し、自分の会社を立ち上げた。今のところ業績は悪くない。そもそも2人とも高給取りで、両方の実家が都内にある夫婦の経済状況は頗る理想的で、中央線沿いに借りた中古マンションの住民の中でもかなりリッチな部類に入る。それでも、以前に比べて将来が不透明になったことで、彼女はやや気が重そうである。