Photo by gettyimages
週刊現代

批評家・伊藤剛さんが選ぶ「人生最高の10冊」

この作品が私の原点です

「キャラ立ち」を教わった一冊

メトロポリス』は小学校1年の時に初めて読んだ手塚治虫作品でした。男の子にも女の子にもなる人造人間の悲劇を描いた手塚の初期SF作品です。

戦後すぐの作品なので、読んだのはもちろん復刻だったのですが、翌年、こっちは連載の『ブラック・ジャック』と出会って、「同じ作者だ!」と思ったんですね。つまり、マンガ家という存在を初めて意識して読んだのが『メトロポリス』でした。

手塚作品には、メタモルフォーゼ(変身)といったモチーフがありますよね。一方、僕には自分の目に見えているものだけがリアリティではない、容易に揺れ動くものである、という感覚がずっとあるんですが、この頃の体験からかもしれません。

高校生になって一気に作品を読んだ、諸星大二郎も僕にとっては大きな存在です。僕は個々のマンガに対しては淡白なところがあり、キャラの名前や設定などもすぐ忘れるんですけど、手塚治虫と諸星大二郎、このふたりは別格なんです。

 

諸星の『暗黒神話』はヤマトタケル伝説を底流にした壮大な物語です。

日本古来の神話、仏教、呪術などあらゆる要素を取りこみ、主人公の少年・武が辿る数奇な運命を描いているんですが、とにかく大胆で強引な作品。しかも、主人公は基本的に受け身で、感情移入もしにくい。少年マンガとしては「べからず」だらけなんですが、そうしたことをねじふせるほどの世界観の魅力があるんですよね。

小さな表現や設定も作りこまれていて、「異界」との回路があちこちに開いているように感じさせます。何とも言えないリアリティが感じられる作品です。