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成年後見制度 介護

86歳女性に勝手に後見人をつけて連れ去った冷酷な裁判所

成年後見制度の深い闇 第13回

本人の意思を訊ねもしなかった裁判所

「裁判所がなんで、ねえ? ……片方だけ(の意見)しか聞かないで。私のことも何にも聞かないで、そういう勝手なことをしたかね……。(私に)聞きに来ればいいじゃないね」

自分の知らないうちに、裁判所に勝手に後見人をつけられ、財産権を奪われた東京・目黒区在住の澤田晶子さん(86歳・仮名)。その晶子さんが、理不尽さに涙を流しながら上記のように切々と語り続ける映像を前回、詳しくご紹介した。

(2017年11月16日公開<「重度認知症と勝手に判定され、財産権を奪われた」母娘の涙の訴え>http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53465

ここでも、あらためて動画をご紹介しておこう。YouTubeでは、次のURLからご覧いただける(https://youtu.be/pdbaCp7m0ZA)。

(※これまでの連載各話はこちらから読めます)

事件のあらましはこうだ。母・晶子さんは軽度の認知症を抱えてはいたが、三女の光代さん(50歳・仮名)の介護を受けながら、東京・目黒区の自宅で、自身にとっては満足な生活を送っていた。

しかし、結婚して別世帯で暮らす長女と次女は、以前から施設に入った方が晶子さんにとって幸せだ、と主張していた。すれ違いが重なったためだろうか、姉二人は三女の光代さんが、母・晶子さんを虐待していると言うようにさえなった。

だが、ここまでは、不幸な家族内での意見の対立だ。

事態が一気に複雑化したのは、長女が家裁に対して、母・晶子さんに成年後見人をつけるべく申し立てをしたところからだ。

 

長女は、母・晶子さんにも、在宅介護をしてきた妹の三女・光代さんに何の相談もなく申し立てをした。そして驚くべきことに、裁判所もまた、後見をつけられる当人である晶子さん本人の調査を一切、行うことなく、2017年3月9日に後見人をつける決定をしてしまったのだ。

後見人がつけられると、被後見人(後見を受ける人)は財産権を制約され、後見人の許可なしには、自分の資産を動かしたり、契約をしたりすることができない。事実上の無能力者として扱われ、自由に社会生活を営めない状態に追い込まれる。

だが、母・晶子さんは認知症とはいえ、医師の診断でも後見人をつける必要のない「軽症」とされていた。そして、本人も、同居する三女・光代さんも、成年後見制度を利用する気持ちはさらさらなかった。

そのため、自分に後見人がついたことをあとから知った母・晶子さんは衝撃を受け、切々と涙を流しながら、冒頭のように気持ちを吐露したのである。

そして、さらに驚くべきことに、後見人がついたあと、自宅で三女・光代さんと暮らすことを望んでいた母・晶子さんは、訪問先のデイサービスから姿を消した。どこかの施設に連れ去られてしまったのだ。

連れ去ったのは、意見が対立していた長女と次女だというが、現場には2人の後見人弁護士もいたという。家族間の対立の一方に後見人が肩入れするだけでなく、本人の意向を無視して、身柄を移す手助けまでしていたのである。

事実、後見人となった弁護士は、三女・光代さんに、こう話していたという。

「申立人(長女)は(母・晶子さんが)施設に入られた方が安心だと思っている」「裁判所では、親族の間で意見の違う場合は、弁護士に(後見人につくよう依頼が)来るんですよ」

それ以来、三女・光代さんは、母親の入所する施設の名前さえ教えてもらえず、母の行方を探し続ける毎日を送っている。

深刻な司法の「手続き飛ばし」

本人の意思を無視しきった今回のケースは、成年後見制度の本来の趣旨に反するだけでなく、司法が抱える極めて重大な問題を露呈させるものだ。

成年後見制度の根本理念は「本人の意思を尊重」することとされている(民法第858条、身上配慮義務規定)。制度の本来あるべき姿を言い表していると言えるだろう。

では、今回のケースでのもっとも大きな問題は、どこにあったか。

家族内で意見の収拾がつかなかったのは不幸なことだが、長女が勝手に申し立てを行ったこと自体は、実は制度上は問題にならない(重ねて言うが、一般的に見て、不幸な経緯ではある)。

成年後見制度を利用するための申し立ては、本人のほか、四親等内の親族などが行うことができ、それに基づいて長女は家裁に後見開始の審判を申し立てたからだ。

しかし、問題はそのあとだ。後見人をつけられた母・晶子さん本人は、裁判所の審判の過程で一切、調査を受けることがなかった。意見を述べる機会がなかったどころか、そのような審判が行われていることさえ、知らなかったのである。

実は、これは法的にも義務付けられている手続きを、いくつも裁判所がスキップした「手続き飛ばし」であった可能性が高いのである。