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医療・健康・食 週刊現代

平均寿命1位は杉並区、ではワーストは…?寿命と収入の不都合な真実

東京23区「健康格差」地帯を歩く

本来、医療は誰にとっても平等であるべきだ。しかし現実は違う。カネがある人は手厚い医療を受け長生きし、低所得者はカネも時間もないから病院に行くことすらしない。残酷な「健康格差」の実態に迫る。

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「健康なんて気にしてないよ」

荒川区・町屋駅前の雑踏を抜け荒川自然公園へ向かう。狭い通りには多くの商業施設が固まり、いかにも下町的な雰囲気を醸し出している。

公園のベンチに集う3人の男性に声をかけた。毛玉の浮いたセーターに使い古したキャップを被った男性(70代)が、声高に話し始めた。

「健康なんて気にしてないよ。会社員時代は、健康診断も受けていたけど、いまは年に一度、区がやっている無料の健診を受けるくらい。

食事はアパートの近くのスーパーで売れ残りの弁当を買っている。半額になるから値段は一つ200円ほど。まとめて買って冷蔵庫に入れておいて、それを食いながら焼酎を飲むのが楽しみだね」

当然のことだが、人にはそれぞれ事情があり、職業、経済力に恵まれている人、そうでない人が厳然として存在する。扶養し、扶養される家族構成もさまざまだ。

この「差」が人の健康をも左右する――。

「健康格差」がいま日本でどんどん拡大している。この問題は、NHKスペシャルでも取り上げられ、大きな反響を呼んだ。

番組を手がけたNHK放送総局大型企画開発センターディレクターの神原一光氏が言う。

「バブル崩壊後の『失われた20年』からどうすれば脱却できるかをテーマに、これまでさまざまな現場を取材してきましたが、今回ほど空恐ろしく感じたことはありません。

スタジオでは健康問題は社会が解決すべきか、それとも個人で解決するべきか、白熱した議論になりました」

東京大学大学院医学系研究科・公共健康医学専攻准教授の近藤尚己氏が解説する。

「健康格差というのは、住んでいる場所、所得、学歴、働き方、世帯構成など社会的な違いによる健康状態の差のことです。

社会的に不利な立場の人たちのほうが不健康な傾向があります。ただ、それは本人の努力だけで決まるものではなく、社会や周りの環境に大きく左右されます。だから『社会が対応すべき』という価値判断があるわけです」

 

WHO(世界保健機関)は、「健康格差」を生み出す要因として所得、地域、雇用形態、家族構成の4つを挙げている。なかでも特に健康と関係が深いのが「所得」だ。

東京23区ごとの平均寿命をみると、その傾向が如実に表れている。男性の平均寿命トップは杉並区の81.9歳で、ワーストは荒川区の77.8歳。

末ページの東京23区平均寿命マップをみると「西高東低」になっているのがわかる。杉並区、世田谷区、目黒区など西側は平均寿命が高く、荒川区、台東区、足立区など東側の区は低くなっている。

23区ごとの平均年収をみてみる。平均寿命が短い区は、平均収入ランキングでも下位に位置していた。残酷なようだが「十分な医療を受けられるカネ持ちは長生きし、貧乏人は早死にする」ということになる。

平均寿命が一番低い荒川区は年収で23区中20位である。荒川区に住む50代男性の話。職業はバスのドライバーで、2人の子どもはすでに成人し、現在は夫婦で都営住宅に住んでいるという。

「私の収入が300万円、不動産会社で事務のパートをしている妻の収入が100万円くらい。正直、健康のことを考えるのは怖いですね。もし大きな病気をして、働けなくなったらと考えると不安でたまりません。

でも健康のために運動したり、定期的に病院に行く『ゆとり』もない。毎日仕事をこなして、生活するだけで精一杯です。将来の健康より、目の前の生活のほうが大事ですから」

この男性のストレス解消の手段がアルコールだ。安酒は手放せないという。

「バスの運転中、渋滞でお客さんから怒鳴りつけるようにクレームを言われたり、運賃の小銭を投げるように渡されたりすると、本当に頭にきますよ。

でもこっちは謝るしかない。だから、そんな日はどうしてもむしゃくしゃして酒の量が増えますね。安い発泡酒やチューハイを買ってよく家で飲んでいます」

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