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京大ナンバーワン教官が教える「勉強することのホントの意味」

これがミライの授業だ
現代ビジネス編集部 プロフィール
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ナイチンゲールが偉大なワケ

「この人の顔は、きっと見たことがあると思います」

そう言って瀧本氏が映し出したのは、今から200年近く前のイギリスで、当時の世間の「常識」と戦い、医療の進歩に多大な影響を与えた女性、フロレーンス・ナイチンゲール(1820〜1910)である。

「ナイチンゲールという人は、何をした人?」
「看護をした人」
「そう、みんなそう思いますよね。でもそれはナイチンゲールの偉大な功績の、実は半分でしかありません。意外なことにナイチンゲールは、皆さんの多くが好きではない、数学の専門家だったんです」

看護と数学? いったいどういう関係があるのだろう、と生徒たちの顔にとまどいの表情が浮かぶ。

「兵士が戦争で死ぬのは、鉄砲で撃たれたことが理由だと思うでしょう。でも実際には、その30倍もの兵士が『きちんと看病されないこと』で死んでいたんです。ナイチンゲールはロシアとオスマン帝国の間で起きたクリミア戦争に派遣されたとき、重症を負ったわけではないのに、死ぬ兵士があまりにも多いことに気づきました。

床や壁は腐り、ゴキブリが這い回って悪臭が立ち込める戦地の病院には、医療物資や薬品も足りなかった。その不衛生な環境で、抵抗力の弱った兵士たちは感染症にかかって、ばたばたと死んでいたのです。

ナイチンゲールがすごいのは、そのことに気づいた後で、兵士たちを看護するだけでなく、彼らの死因をきちんとした統計データにとり、一目でわかるグラフにしたことにあります」

 

その当時は、棒グラフも円グラフも普及していない。ナイチンゲールは独自に「コウモリの翼」と呼ばれる円グラフを作り、兵士たちの死因の統計を1000ページ近くにもなる報告書にまとめ、イギリス女王が直轄する委員会に突きつけたのである。

ナイチンゲールがこの時に明らかにした、客観的なデータにもとづく医療施設の衛生環境の改善がなければ、現代の病院における死亡率も大きく変わっていたかもしれないのだ。ナイチンゲールは裕福な家庭に生まれたことから、幼少の時から最高の教育環境を与えられ、語学や文学、そして数学や統計学を学んでいた。

彼女がやり遂げた人類史に残る大きな「仕事」は、彼女が看護師になるずっと以前に学んだ「数学」と「統計学」によって達成されたのである。

続いて瀧本氏がナイチンゲールと比較の対象として、「残念だった人」として紹介したのが、文学者としては超一流の作品を残した森鴎外だ。当時最先端のドイツ医学を学んだ森鴎外は、明治時代に国民病と呼ばれた「脚気」の原因を、「脚気菌」という細菌が起こしている結核やコレラと同様の伝染病だと考えた。

「しかし脚気の本当の原因は、ビタミンB1の不足であることは今では常識です。当時も、ビタミンB1を多く含む麦を食べている人は、脚気にならないことがわかっていた。しかし陸軍軍医のエリートであった森鴎外は、その事実を無視して『食事なんて関係ない』と主張し続けた。

その結果、日清・日露戦争で何万人もの兵士が脚気が原因で命を落としました。多くの人々の役に立つ、新しいことを発見するポイントを、私たちはナイチンゲールから学ぶことができます。それは『思い込みではなく、誰もが納得するデータを集めること』なんです」

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