アメリカ

アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」の正体

富裕層でも貧困層でもない。しかし…
池田 純一 プロフィール
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実のところ、「富裕層」の同義語として、彼女が「エリート」という言葉を使っているところからもわかるように、彼女のいう「クラス」とは、所得階層という経済的階層よりも、主には文化的洗練さの有無・程度による「文化的な断絶線=階層」のことを指している。

この点で、彼女の分析の枠組みは、フランスの社会学者のピエール・ブルデューのいう「文化資本」の議論を踏襲しており、実際、しばしば本文でブルデューを参照している。

端的に富裕層(エリート)とワーキング・クラスの間の分断線は、大卒かどうか、という点にある。もう少し正確に言うと、代々、大学を卒業してきた家庭の出身かどうか、という点に依拠している。

そして、先祖から続くこの生活環境の違いが、富裕層とワーキング・クラスとの間で、決定的な世界観の違いをもたらしているという。

だからトランプが選ばれた

彼女によれば、この分断線の所在を大卒支持者が多いリベラル=民主党が完全に見誤ったため、昨年の2016年大統領選では、終始優勢が伝えられていたヒラリー・クリントンが、ドナルド・トランプに敗北を喫してしまったのだという。

そのような理解を出発点にして、ウィリアムズは、ワーキング・クラスの「世界を観る枠組み」について解説していく。

詳細は直接本書に当たって欲しいが――まさに「神は細部に宿る」なみに一つ一つのエピソードが示唆に富んでいる――、なかでも興味深かったのが、ワーキング・クラスは、専門職の人びとを疎ましく思っているが、成功した金持ちには尊敬の眼差しを向ける特徴があると論じているあたりだ。

なるほどだからトランプだったのか、と妙に合点がいった(この点では、白人であるかどうかは関係ないことに注意しよう)。

日々、単純作業に勤しむワーキング・クラスからすると、あれこれ指図(だけ)をしてくる専門職(企業の管理職、医者、弁護士、教師、等)は口だけの人間として疎まれてしまう。そしてそうした専門職の人びとの大半は、大学以上の高等教育を享受した人たちだ。

大抵の場合、大卒ではないワーキング・クラスにとっての基本的な関心事は、経済的余裕があまりない中で日々の生活を大過なく過ごしていくこと、その中で家族を養っていくこと、そしてまさかの時に備えて周辺コミュニティにセーフティネットを張っておくことにある。

そこから、勤労や勤勉が尊ばれ、教会に定期的に通い、道徳意識や伝統に信頼を置くようになる。少額ではあってもコミュニティの催しに寄付を行い、地元とのつながりを確保しておく。

エリートが「能力」を重視し、しばしば自己啓発系の――今で言えばマインドフルネスのような――東西宗教混淆の目新しいスピリチュアルな教説を選びがちになるのに対して、ワーキング・クラスは「誠実さ」を何より大事にし、信仰にしても、手堅く地元に根ざした伝統的な教会に通う(このあたりを知ると、オバマはよくてヒラリーがだめだったことも理解できる)。

 

白人ワーキング・クラスの特徴

そもそも大学に行かないということは、生まれ育った地域からは基本的には出ていかないということも意味する。

そしてアメリカにおいて、ハーバードやスタンフォードのような、名声の高い大学の多くは北東部のニューイングランドとカリフォルニアに集中している。いきおい(共和党支持者の多い)中西部や南部のレッドステイツでは、ワーキング・クラスの人びとがコミュニティの多くを占めることになる。

要するに「田舎の閉鎖性」ということになるのだが、問題はむしろ、その閉鎖性の実態を実感をもって知る手立てを、都会育ちのリベラルはなかなか持ち得ないところにある。

ここで重要になるのが「ホワイト」という白人のワーキングクラスに限定される特徴だ。

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