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アメリカ

アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」の正体

富裕層でも貧困層でもない。しかし…

根深い亀裂

前回(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53379)、マーク・リラの『難破する精神』を取り上げながら、トランプ以後の社会、いわゆる「ポスト・トゥルース」の社会において、デモクラシーもただの政治システムの一つであることが明らかにされ、デモクラシーそのものの信頼が失墜したりはしないのか、という懸念が生まれつつあることを指摘した。

そのような懸念が必ずしもありえないことではない、という見通しを、トランプ大統領の誕生を後押ししたといわれる〈ホワイト・ワーキング・クラス〉の実態に即して丁寧に記したのが、今回取り上げるジョーン・C・ウィリアムズの『アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々』である。

ウィリアムズによれば、端的に、エリートが守りたいと思うものが「アメリカの信条」であるとしたら、ホワイト・ワーキング・クラスが守りたいと願うのはあくまでも「自分たちの生活」である。となると両者の間では、未来に求めるものが全く異なることになる。

このように、ウィリアムズが描くのは、エリートとホワイト・ワーキング・クラスの間に横たわる文化的亀裂が、アメリカン・デモクラシーの未来にもたらす衝撃である。

アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々

昨年11月の大統領選でトランプ当選の直後に、ハーバード・ビジネス・レビューのウェブサイトにウィリアムズが寄稿した記事がきっかけになって出版されたこの本は、小著ではあるが、読めば読むほど、なるほど、と思えるところの多い好著だ。

彼女の考えでは、アメリカ人の3分の2は大学を卒業していない、という単純な事実にきちんと目を向けていないことが政治エリートたちの最初の問題であり、その事実を無視して、今後のアメリカのデモクラシーの正常化はありえないという。

たとえば、製造業から情報産業への構造転換に対処するために「教育」が大事であるなどと判を押したように主張し続けること自体、ワーキング・クラスが抱く「教育」観を無視した結果、大半が大卒以上(というエリート階級)であるリベラル政治家/活動家が陥る隘路なのである。

 

決定的な世界観の違い

ここで彼女のいう「ワーキング・クラス」とは、「富裕層(所得分布の上位20%)でも貧困層(所得分布の下位30%)でもないアメリカ人」のことを指す。

とはいえ、ワーキング・クラスというと、20世紀前半の労働組合が活躍していたころの(古い)イメージが、ともすれば連想される。

ウィリアムズとしては「富裕層」と「貧困層」に挟まれた人びとなので、素直に「中流階級(ミドルクラス)」という言葉を使いたかったようなのだが、この言葉はジャーナリズムによってあまりにもルーズに使われすぎてきたせいか、意識の上で自らを「中流階級」とみなす高給取りの弁護士や企業管理職等のエリートが存在するため、やむなく「労働者階級(ワーキング・クラス)」という言葉を使うしかなかったことを最初に断っている。

かように、アメリカでは「クラス(階級)」について議論するための語彙が貧しい。このことを彼女は折りに触れ嘆いている。

実際、その意識は本書全体を通じて感じられることで、彼女からすると、PC(政治的正しさ)やアイデンティ・ポリティクスなみに、クラスの説明に関わる新たな語彙が創造され流通し、議論が盛んになることを望んでいる。