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核から経済へシフトか?金正恩体制「若干の変化」が示すもの

米中はどうやらその出方を窺っている

トランプ・習会談は肩透かしだったが

衆人注目のトランプ・習近平会談は、北朝鮮問題では、肩すかしな結果に終わった。故宮貸し切り、2500億ドルに及ぶお土産商談リストと、破格の「超国賓待遇」を用意した中国側だが、報道を見るかぎり、習近平は北朝鮮に関して「国連制裁決議を厳格に履行する」「対話を通じた解決」など新味のない話に終始した。

それにもかかわらず、最近明らかになってきたこともある。⽶国による北朝鮮軍事攻撃は、⼝先の脅しだけではなさそうなのだ。

米軍の準備の本気度が日本側にも感じられるレベルになったこと。そして今後の北朝鮮核ミサイル問題の成り行きを推論するとき、北朝鮮が「威嚇・挑発」のつもりでしたことが「一線を越えた」と認定されて、米国の軍事攻撃を招いてしまう「読み違い」「不慮の軍事衝突」の可能性は、想像以上に大きいらしい。

今回は9月4日の私の記事(「米中が組んで北朝鮮を討つ、そんなシナリオさえ現実味を帯びてきた」)に続いて、北朝鮮問題の新たな展開に触れたい。

 

不慮の軍事衝突のリスク

防衛省の枢機に関わる立場の人によると、同省はこの9月、カウンターパートである米軍や米国防総省から「米国は本気で対北朝鮮軍事作戦の準備をしている」気配を感じているという。そのため、いよいよ、その事態が来たときに、日本としてどういう対処をするか、米国からはどんな協力を求められるか等々、強い緊張の下で「頭の体操」を続けているという。

もちろん準備することと、本当にやることの間には大きな距離があり、準備したことがそのまま米国の政治的決定に繫がる訳ではない。ただ、「こういう場合、米国は疑いの余地なくやる」というケースも見えてきた。

8月に北朝鮮の朝鮮人民軍戦略軍司令官が、4発のミサイルを同時にグアム沖30~40kmの海上に撃ち込む計画があると表明した。そうすると、中国が翌日直ちに、『環球時報』社説の“口”を借りてだが、「先に北朝鮮が米国領土に向けて威嚇のミサイルを撃った結果、米国から報復を受けても、中国は(中朝相互防衛条約にかかわらず)中立を保つ」と述べた。

この出来事から、米中両国はこのような事態についても意思疎通をしたのだろうと感じた。グアムやハワイ周辺に落とすミサイル実験……北朝鮮は「脅し」のつもりでも、米国は「武力で反撃する」と言う。米国の意思は堅そうだ……ここは北朝鮮が読み違いをしないようにと、中国も慌てて明確な警告を送ったように見えた。

OBラインは引かれた

もう一つのケースは、核弾頭を積んだミサイルを飛ばして大気圏の内または外で爆発させる実験を北朝鮮が敢行した場合だ。

最近、かつて米太平洋艦隊司令官、国家情報庁長官を歴任した米海軍のデニス・ブレア提督が、いま議長を務めている笹川平和財団米国法人のウェブサイトに「もし北朝鮮が本当に太平洋に核ミサイルを撃ち込めば、北朝鮮の判明している全ての核実験場・ミサイル発射・関連施設に対して、米国と韓国の大量の空爆・ミサイル攻撃を行うべきである」とするメッセージを寄せた。

ちなみにブレア提督は人格も識見も定評のある知性派軍人であり、ケレン味のある発言をするタイプの人ではない。

北朝鮮の核兵器は、既に地下核実験をみても紛うことのない技術水準に達しているが、目に見える形で爆発実験をすれば、世界中に与える心理的衝撃は計り知れない。ここにも越えてはならないOBラインが明確に引かれたということだろう。

米国にとっても先制攻撃は簡単に踏み切れるような決断ではないが、「米国が攻撃を受けた」となれば、議会もメディアも世論も風向きがガラリと変わるのが米国の怖さだ。そして、この2例に示されるように、何をもって「攻撃された」とするかの認定は、かなりのアヤがある。

ミサイルの飛距離といい、核弾頭の性能といい、北朝鮮は目に見える仕上げの実験を行って、「もはや米国は我々に手が出せなくなった」ことを高らかに宣言したかったのだろう。だが、そのゴールはいずれもOBラインの向こう側に行ってしまった。

北朝鮮が9月の核実験以来「大人しく」しているのは、水面下でいろいろなやり取りがされている結果だと思うが、なにより、やりたかった実験が米中双方からの圧力で封じられて、手詰まりになってしまったことも一因のはずだ。