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週刊現代

速すぎる日本社会の変化、その根底にあるものを読み解く3冊

「風」と「空気」が人を動かす時代に

「日本の父」を殺した息子

総選挙は投票の前に山場を迎えてしまい、当日は、もはや白けたムードが漂っていた。

それにしても世の中の動きが早い。活字メディアは歩調を合わせられず、四苦八苦している。印刷にかかっている間に情報が二周遅れになってしまうからだ。

だからこそ、半歩先を行こうと空虚な予想を書き連ねたものよりも、十歩後をゆく検証の行き届いた作品に接したいと思う。過去を題材にした良書は未来をも教えてくれる。

佐々木実『市場と権力「改革」に憑かれた経済学者の肖像』は、その期待に応えてくれる一冊だ。経済本は苦手だからと敬遠して未読だったのだが、手にするや没頭して読み耽った。本書は小泉政権下で経済政策を牽引した、竹中平蔵元国務大臣の評伝である。

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和歌山県の履物店に生まれ、深夜まで父親が客の下駄の鼻緒をすげかえる後ろ姿を見て育った竹中は激しい上昇志向の持ち主となる。

東京への大学進学を果たすと力ある人にすり寄り、一銀行員からアメリカ留学を経て大学教授、政界へと転身していく。その過程では、知人の書いた論文を横取りするなど、ずいぶんと品位のないことをしている。

彼自身の地位が上がるに従い、すり寄る相手も大物となっていくが、気になるのはアメリカで最新の経済学を学んだという触れ込みで上り詰めていく彼の周囲に、多くの「アメリカの友人」がいたことだ。

小泉政権下、彼の取った経済政策によりアメリカの未曽有の金融危機はジャパンマネーによって回避されたと著者は説く。

 

シワ寄せは当然、日本が被ることになり、とりわけ地方は疲弊した。製造業への派遣労働を認めたため、大量の非正規労働者が生まれ、日本社会の在りようも、この時から大きく変貌を遂げることになる。

都心から遠く離れた海辺の町で、下駄の鼻緒をすげかえる父の背中―、この原風景は彼にとってどのような意味を持っていたのだろうか。おそらく、郷愁など彼にはないはずだ。故郷の風景や思い出は、彼にとっては疎ましく、消してしまいたい過去なのだろう。

実際、竹中の政策によって、こうした風景や人々の慎ましい営みは失われてしまった。地方にいけばシャッター街ばかりが目立つ。これは「息子」によって殺された「父」の姿だ。

単なる人物評伝の枠を超えて、著者は竹中が取り憑かれていったものの正体にも迫っている。平成史を考える上で外せない一冊として、今後も長く読み継がれていくに違いない。

「風」と「空気」の関係

秋風が木の葉を揺らす季節となったが、ここのところ「風が吹いた」、「逆風になった」と盛んに耳にする。選挙も人の運命も、すべては「風」で決まるようだ。それにしても「風」とは何か。もはや古典となった山本七平『「空気」の研究』を再読した。

「あの空気では言い出せなかった」、「時代の空気は」という言い方を日本人はよくする。その場の「空気」のせいにしてしまえば、誰も責任を取らなくて済む、理性や思考を押しやり「空気」に左右されることを恥と思う感性が日本人には欠如していると著者は説いている。この「空気」に動きが加わった時、「風」は生じるのだろう。

小池百合子都知事は「無風の時は自ら風を起こす」と豪語した。だが、彼女自身はエンジンのついた飛行機でもロケットでもなく、ただ風に乗って空高く舞いあがった一枚のビニールシートにすぎなかったのではないか。

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風が凪いで足元に落ちてきたビニールシートを、今、皆が一斉に踏みつけている。都知事を庇う気持ちは毛頭ないが、あまりに醜悪である。

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