国際・外交 中国 アメリカ 北朝鮮

習近平がトランプに呑ませた「スーパー・ビッグディール」の中身

そして北朝鮮空爆は「延期」された…
近藤 大介 プロフィール

中国はカネで平和を買った

さて、ここまで記してきた米中両首脳の11月9日の「4つの発言」から読み解けることは何だろうか?

私は、ホームグラウンドである中国側が主導権を取って、貿易不均衡問題と北朝鮮問題を、見事にディール(取引)したと解釈している。早い話が、中国はカネで平和を買ったのである。

このことを述べるためには、4月の初対面のことから始めなくてはならないだろう。

4月6日と7日、トランプ大統領はフロリダ州の別荘「マー・ア・ラゴ」に、習近平主席を招いた。

トランプ外交の最大の特徴は、第二次世界大戦後のアメリカの伝統だった「理念外交」(自由・民主・人権などの普遍的理念を掲げる外交)ではなく、「ディール外交」(商談のような実利外交)を行うことである。この時もトランプ大統領は、いきなりビッグ・ディールを、習近平主席に持ちかけた。

「中国の力で、北朝鮮を抑えつけてほしい。その見返りとして、南シナ海を好きにして構わない。オバマ前政権は、南シナ海で『航行の自由作戦』を展開したが、中国が北朝鮮問題に本気で取り組んでくれる限り、わが政権はそのようなことはしない」

この発言は、習近平主席にとって青天の霹靂だった。後に中国の外交関係者は、こう述懐した。

「この時の首脳会談の3大テーマは、貿易不均衡、北朝鮮、南シナ海だった。中国としては、南シナ海問題は、わが国の核心的利益なので絶対に妥協しない。貿易不均衡問題は、トランプ大統領の一番の持論でもあるので、ある程度向こうのメンツを立てる。そして北朝鮮問題は、『3つの堅持』を盾に取って曖昧に躱す。つまり南シナ海は×、貿易不均衡は〇、北朝鮮は△とした。

ところがトランプ大統領は、いきなり北朝鮮問題と南シナ海問題を、『ディールしよう』と提案してきたのだ。わが方としては、異存があるはずもない。そもそも中国外交の優先順位として、アメリカが大事か北朝鮮が大事かと言えば、それは前者に決まっている」

習近平主席は、トランプ大統領に対して、「中国としてできるだけのことをやる」と約束した。秋に控えた5年に一度の中国共産党大会までに米朝開戦となる「悪夢」を避けるためにも、一肌脱ぐことにしたのである。

 

しかし結局、北朝鮮は中国に対しても態度を強硬化させるばかりで、うまくいかなかった。「中国は本気になっていない」と業を煮やしたトランプ大統領は5月24日、米海軍駆逐艦を南沙諸島ミスチーフ礁(美済礁)の人工島の12海里内に派遣する「航行の自由作戦」を敢行。その後も、7月2日、8月10日、10月10日に「航行の自由作戦」を実施した。

「中国は裏切り者」とみなした金正恩政権は、ロシアを頼った。だがいかんせん、トランプ政権はロシアゲートで窮地に追い詰められていったので、ロシアは米朝の間を取り持てなかった。

焦った北朝鮮は、9月3日に6度目の核実験に踏み切って、正面突破を図る。だが、10月18日から始まる5年に一度の共産党大会を穏便に行いたい中国は、北朝鮮を黙らせるため、強烈なカードを2枚切った。

一枚目は、9月22日に商務部が発布した「第52号公告」。内容は、12月11日から北朝鮮製の繊維製品の輸入禁止、液化天然ガスなどの北朝鮮への輸出禁止、来年の北朝鮮への石油製品の輸出を24万トン以下にすることなどである。

二枚目は、9月28日に商務部が発布した「第55号公告」。内容は、北朝鮮の企業・個人が、中国国内及び国外に設立した中国との合弁企業を、120日以内に閉鎖することである。

この2枚のカードは、北朝鮮の貿易の9割を占める中国が、北朝鮮との貿易・交易を止めると決断したことを意味する。しかも、10月の共産党大会と11月のトランプ大統領訪中に影響が出ないよう、この二つのイベントを終えた時期に設定している。

これらの措置が北朝鮮に与えた影響は、計り知れなかった。ただでさえ今年は、旱魃が続いたせいで秋の収穫が不作で、極寒の冬を乗り切れるかどうかさえおぼつかないのだ。

そして「アジアの皇帝」に

ここからは、私の推定である。

北朝鮮は水面下で、ついに中国にSOSを出した。中国は米朝間の仲介役を務めるにあたって、条件を出した。それは、少なくとも10月の共産党大会と11月のトランプ大統領訪中が終わるまで、北朝鮮は核実験とミサイル実験を控えるというものだ。それを「担保」にして、中国はアメリカが早期の「開戦」に突き進まないよう説得するとしたのだ。

そして中国は、春にトランプ大統領が持ちかけてきた「ビッグディール」をはるかに超える「スーパー・ビッグディール」を、トランプ大統領に突きつけることを決断した。

それは、北朝鮮問題と並ぶもう一つの米中間の懸案事項である貿易不均衡問題について、中国側がアメリカ側に大幅譲歩する提案だった。

すなわち、昨年のアメリカの対中貿易赤字は、アメリカの貿易赤字額の47%にあたる3470億ドルに達した。そのうち約4割は、中国に工場を置くアメリカ企業からのものなので、残りの6割にあたる2000億ドル分を、トランプ大統領が訪中した際に「保証」するというものだ。保証するとは、2000億ドル以上の対米投資やアメリカ製品購入を決めるということだ。

その代わり、アメリカは、少なくとも来年夏まで、北朝鮮を攻撃するのを延期する。なぜ来年夏かと言えば、来年11月に重要な中間選挙を控えたトランプ大統領にとって、来年夏というのが、我慢できる限界だからである。トランプ大統領としては、中間選挙の時までには、北朝鮮を攻撃して金正恩政権を崩壊させるか、もしくは金正恩政権に核開発を断念させるかして、外交成果を得たいのである。

つまり、「カネで平和を買う」という「スーパー・ビッグディール」を、中国からアメリカに持ちかけたのである。前述のように、その内容は、ワシントンDCの崔天凱中国大使公邸か、クシュナー邸のどちらかで密かに話し合われたものと思われる。結果、トランプ大統領の答えは、「OK!」だった。

そして11月9日、2535億ドルという覚書が交わされた。「スーパー・ビッグディール」は見事、成就したのである。

この時、習近平主席が「地域の平和」と同時に買ったのは、冒頭述べたように、「アジアの皇帝」として、アメリカから承認を得ることだったと言えるだろう。

共産党大会を終えたばかりの中国で、政権基盤を盤石のものとし、「アジアの皇帝」として君臨していく――こうした大目標に較べれば、主に国有企業を結ばせた2535億ドルの契約など、安いものだった。