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習近平がトランプに呑ませた「スーパー・ビッグディール」の中身

そして北朝鮮空爆は「延期」された…
近藤 大介 プロフィール

ここに訳出した両首脳の発言は、主にホワイトハウスのHPから引用しているが、一つ気づいたことがある。

習近平主席の発言は、中国語を米国務省の官僚が英語に翻訳したものだから、非常に格調高い洗練された英語になり替わっている。だが、トランプ大統領の発言はそのまま載せるから、ひどく幼稚な単語が並ぶのだ。特に、トランプ大統領の発言の特徴として、気分がよい時に「very」と「great」を連発する癖がある。この短い発言でも、それぞれ8回と5回、連発していた。

もっとも、うがった見方をすれば、国の威信を賭けて臨んだ中国外交部に対して、トランプ大統領から3割もの予算削減案を突きつけられた国務省は、戦意喪失し、かつ反トランプ感情が渦巻いていたのかもしれない。付き合ってみると分かるが、外交官だって生身の人間なのだ。

約28兆7800億円の超大型契約

さて、米中首脳会談を終えたトランプ大統領と習近平主席は、同じ人民大会堂内にある米中企業家対話会の会場に移った。ビジネスマン出身のトランプ大統領にとっては、真骨頂となったメインイベントである。

トランプ大統領は、この日のためにアメリカを代表する29社の代表を帯同していた。中国人の司会者が、1社1社の米中の社名、代表者名、契約金額を、中国語と英語で読み上げる。呼ばれた米中双方の企業の代表者は登壇し、契約覚書に署名していくという段取りだ。

その様子を、トランプ大統領と習近平主席が、後方で目を細めながら見守っている。特にトランプ大統領は、満面の笑みを浮かべている。

会場で鐘山商務部長(習近平主席の浙江省時代の腹心)が、「本日の契約総額は、2535億ドルに達した」と発表した。邦貨にして、約28兆7800億円!とてつもない額だ。

2016年のアメリカの対中貿易赤字は、3470億ドルである。そのうち、アメリカ企業が中国で生産し、アメリカに輸出しているものが約4割なので、残りの2000億ドル分を、一気に解決するようにしたのではなかろうか。

主な契約は、以下の通りだ。

<837億ドル>  ウエストバージニア州と国家エネルギー投資集団が、シェールガスや化学製品を生産。
<430億ドル>  中国石油化学がアラスカ州で液化天然ガスを開発。
<370億ドル>  中国航空器材集団がボーイング社から、B737を260機、B787とB777を40機、計300機購入。
<120億ドル>  小米、OPPO、vivoが、クアルコム社から携帯電話の部品を購入。
<50億ドル>  中国が来年までに、アメリカの大豆を1200万トン追加輸入。
<35億ドル>  吉祥航空が、B787のエンジンをGM電気などから購入。

中国は、国有企業が国の主な基幹産業を牛耳っているが、習近平国家主席の「鶴の一声」は、国有企業にとって絶対命令である。そのため今回のように、民主国家では考えられない規模の「護送船団方式」が可能となる。このことは、中国が採用している社会主義市場経済の最大の強みと言ってよいだろう。

だが、この日は、小米の雷軍総裁、京東集団の劉強東CEO、レノボの楊元慶CEOなど、民営企業の経営者たちも、次々と大型契約を結んだ。

これには、主に3つの理由があるものと思われる。第一に、民営企業の経営者たちが、わが社は中国共産党と習近平主席に忠実だということを示したかった。第二に、それによって株主と消費者を安心させたかった。

そして第三に、「公認された海外投資」によって、資産を安全なアメリカに移したかったことだ。昨年後半から、資本流出を懸念する中国政府は、企業の大型海外投資を大幅に制限してきたが、今回ばかりは例外である。そこでこのチャンスに、アメリカ投資という形で資産を海外に移そうというわけだ。

このように、様々な思惑が絡んでいたわけだが、この史上最大規模の契約の検証者となった米中両首脳は、次のように祝辞を述べた。

〔PHOTO〕gettyimages

習近平: 「今年は『上海コミュニケ』(ニクソン大統領が上海で発表)が発表されて45周年になるが、中米の経済貿易関係は、歴史的な進展を見た。中国経済は、高度成長から高質成長へと展開してきている。供給側構造性改革を深化させ、国有企業改革に力を入れている。

対外開放は、中国の基本的な国策である。中国の開放の大門は、閉門するのでなく、ますます開門するのだ。

中米はそれぞれ、世界最大の発展途上国と世界最大の先進国であり、相互補完性の方が競合性よりもはるかに大きい。両国の経済貿易の提携の余地は巨大なのだ。われわれは積極的に、アメリカのエネルギーや農産品などの輸入拡大に努めていく。また、サービス業の提携も深化させていく。

同時にアメリカにも、中国の民用技術産品の輸出を拡大してほしい。これからも継続して、中国企業の対米投資を奨励するし、アメリカ企業の『一帯一路』への参画も歓迎する。

中国では古代から、『通商する者は、仁の道と利の道に通じる』と言う。両国の人民が利益を得られるようなサクセス・ストーリーを築いていこうではないか」

 

トランプ: 「特に習近平主席に対して、いまここで、あなたのとても、とても、とても美しい国で、このような温かくて優しいもてなしをしてくれたことに対して感謝する。米中のビジネス界代表による議論は、両国のパートナーシップを強固なものにする。

習主席とは、共通のゴールと利益について話した。二人はとてもケミストリーが合う。わが政権は対中貿易とビジネス関係を改善していく。過去の長い長い日々と違って、フェアなものにしていく。

周知のように、アメリカは理解不能なくらいのショッキングな、年間5000億ドル規模の対中貿易赤字を抱えている。かつ年間3000億ドル規模の強制的技術移転、知的財産の盗用などに遭っている。

だが私は、中国を非難しない。(拍手)私が非難するのは、こんな状況になるまで放置しておいた(アメリカの)過去の政権だ。こんな状況は、偉大なアメリカ企業にも、偉大なアメリカの労働者にも、寄与するものではない。だからわが政権は、このような状況を変えるべく進み出したのだ。

それから、まず改善すべきは、北朝鮮の核の脅威だ。昨日、ソウルの国会で私が述べたように、アメリカはこの問題の完全で永久的な北朝鮮の非核化に取り組んでいく。

重要なのは、中国がこの問題を、容易に素早くフィックスできることで、私は中国及び中国の偉大な国家主席に対して、一生懸命動くよう呼びかけている。私は中国の国家主席について分かっていることが一つある。それは、もし習主席が一生懸命取り組んだなら、解決できるということだ。それは疑いのないことだ。

すべての国々が国連安保理の経済制裁を履行し、北朝鮮の体制とのビジネスをストップすることを求める。すべての国が協力して、あのならず者体制が世界の核の脅威とならないよう強化していかねばならない。

習近平主席が、北朝鮮に対する貿易制限と銀行取引の禁止を行ってくれたことに感謝する。国家主席と中国のビジネスリーダーたちに、アメリカや同盟国と共にあることに感謝する。

だが、光陰矢の如しだ。大事なのは素早く行動に移すことで、とりわけ中国について言える。この悲劇的な状況については、ロシアにも助力を呼びかけていく。

今日の議論で経済協力に弾みがつくことを願う。アメリカのハードウォーカーと中国のハードウォーカーは、繁栄と幸福、平和への道に値するのだ」

このように、中国は最大級のプレゼントを、太平洋の向こう側からの賓客に持たせ、満足させたのだった。札束外交、金満外交などと揶揄されるが、「外交はカネで買える」と考えるのが中国人なのである。とりわけ、商人出身のトランプ大統領に対しては有用であることが証明された格好となった。