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遅々として進まない自由貿易協定「日本が悪者」にされてしまった理由

いわく「要求レベルが高すぎる」
町田 徹 プロフィール

「カナダ・リスク」が表面化し始めた

継続交渉で特に気がかりなのは、カナダの動向だ。

現地からの報道によると、トルドー首相が11日、大筋合意そのものは認めながらも、自動車など2分野に言及。「国民の利益にならない協定には慌てて駆け込むことはしない」「カナダとカナダ国民にとって最善の協定にするため、まだやるべき仕事が残っている」と、今後の協議で凍結項目に盛り込むよう粘り強く交渉する考えを強調した。

カナダのトルドー首相カナダのトルドー首相のひと言で、継続交渉に暗雲が… photo by gettyimages

カナダは一連の交渉で、自動車の安全基準に難色を示したほか、自国文化を保護するため、外国からの投資の制限や自国産業への補助金の支給が可能な「文化例外」を廃止する条項の凍結を求めている。

専門家たちからは、自動車にゼロ関税を適用する際の条件である部品の現地調達規制(原産地規制)で「カナダが早期に妥協できない問題があったのではないか」との指摘もなされている。

これらはいずれも、カナダと米国が来年3月の合意を目標に交渉中のNAFTA(北米自由貿易協定)で争点となっている。下手な妥協をすれば交渉材料を失うことになりかねず、NAFTAに先駆けてTPPで譲歩することはできないというわけだ。

トルドー政権は、保守党の前政権が合意に漕ぎ着けたTPP交渉を批判して、2015年に政権奪取を実現した経緯がある。CPTPPの交渉における安易な妥協は、国民の支持を失う結果にもつながりかねないだけに、頑なになるリスクが残っている。

 

「日本が戦犯」との認識も

困難という意味では、アメリカの復帰も一筋縄ではいかないだろう。

トランプ大統領は10日の現地での演説で「公正で互恵貿易の原則を守る国とは2国間の貿易協定を結ぶ。主権を放棄するような協定には取り組まない」とあらためて語っており、貿易交渉の軸を2国間協定に移し、TPP11参加国とも個別の通商交渉に注力する構えだ。

11カ国が一致して、アメリカがTPPに復帰すれば今回凍結された項目が解除され、同国の関心事項を早期に国際ルール化する道が開ける、という論理をもってアメリカの復帰を促したいところだ。その一方で、各国がTPPで合意した以上の妥協はしない考えを明確にして、トランプ大統領に再考を促す粘り強さも求められている。

また、将来、中国を参加させる布石として、CPTPP加盟国を増やすことも大きな課題だ。加盟の意欲が強いとされる台湾だけでなく、インドネシアやタイの勧誘は急務である。

最後の課題は、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、 タイ、ベトナムのASEAN10か国に、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インドの6か国を加えたRCEP(東アジア地域包括的経済連携協定)交渉における中国との綱引きである。

政府は、日本から輸出する工業製品の90%以上で関税の段階的な撤廃を獲得したことを理由の一つに掲げて、CPTPPは「包括的及び先進的なTPP」と成果を誇示した。そして、CPTPPをモデルにRCEPをレベルの高い協定に高めるよう主張し続ける構えだ。

しかし、こうした日本の姿勢がもろ刃の剣になっていることをそろそろ直視すべきだろう。

CPTPP諸国と違い、RCEPの交渉参加国はまだ経済が成熟しておらず、多くの幼稚産業を抱えているのが実情だ。つまり、総論では自由貿易に賛成でも、まだ「包括的な自由貿易協定」を受け入れて国内産業を壊滅させるわけにはいかない段階の国が多い。

そういう国々にとって、高いレベルでの協定という現実離れした要求を突きつける日本は「RCEPの合意を困難なものにして、潰している戦犯」と映っているようだ。ASEAN50周年の今年中に大筋合意を目指していたのに、12日のRCEP閣僚会合で事実上断念せざるを得なかったのは、「TPP偏重の日本の交渉姿勢に問題があった」との批判が渦巻いているらしい。