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『君の名は。』が現実に?隕石落下で湧く中国の秘境シャングリラを歩く

おそらく世界初の現地ルポ
青山 潤三 プロフィール

「隕石かい? 見たよ!」

巴拉格宗国家公園を訪れた翌日、おそらく隕石落下地点に最も近い村と思われる、幸福村へバスで向かうことにしました。この村は、以前何度も訪れた場所なので、土地勘があります。もっとも、かつては長江沿いの九十九折りの道を走ってゆくのどかなバスがあったのですが、数年前にハイウェイが完成し、路線バスのルートも大きく変わっていました。

そこで、まずはシャングリラ市街地とシャングリラ大峡谷のほぼ中間地点の町・并子欄(ベンツーラン)まで行き、そこの宿に荷物を置いて、幸福村まで往復しようと考えました。

并子欄に着いたのは、午前11時過ぎ。ここは標高約1800mあまりとシャングリラ市街よりも低地なので、さすがに暑くなってきます。奄美大島とほぼ同じ緯度なのです。

中央の川は長江(金沙江)と翁水川の合流地点。奥の長江は水の色が茶色い

だだっ広い新道から脇に入り、旧道沿いにある旧知の安宿を探します。周辺はかなり様変わりしていますが、意外にも古い宿や食堂・商店は昔のまま立ち並び、結構賑わっています。

筆者が最後にこの宿に泊まったのは6年前。ほうぼう歩き回った挙句に見つけたその安宿は、新道沿いに移動して、ずいぶん近代的なホテルに生まれ変わっていました。かつての独特な雰囲気がなくなってしまったのは少し残念ですが、これも中国社会の時代の流れです。

宿の主人は、筆者を覚えていて大歓迎してくれました。

 

訪れたのはちょうど昼時だったので、宿ではご近所さんも集まって、和気あいあいと食事中。筆者もその輪にしばし加えてもらったのですが、「そういえば、例の隕石はどこに落ちたんですか?」とそれとなく話題に出したとたん、皆急に黙り込んでしまいました。その後も何度か聞こうとはしてみたものの、「どこに落ちたかとか、細かいことは誰も知らない」といかにもイヤそうに答えるばかり。隕石の話はほどほどで打ち切らざるを得ませんでした。

宿に荷物を置き、この日の午後は付近の散策にあてることにして、長江のほとりへ下りました。

すると、スキンヘッドの老人がひとり木陰に佇んで、大きな鎌で一心にリンゴの皮を剥いています。筆者を見つけると「一緒に食べないか」と声をかけてくれました。気さくそうな人なので、隕石のことも尋ねてみましょう。

「隕石かい? 見たよ! すごかったよ! でっかい火の玉が山の向こうにすっ飛んでいったんだ」

ここまで来て、ようやく「見た」と断言する住民に初めて出会いました。ただ、筆談でより詳しく聞いてみようとしたものの、「字は読めない」とのことで泣く泣く断念。この辺りには、読み書きができない住民も決して珍しくないのです。

バスがない!? 本当に?

夕食は、牛肉や野菜を鉄板に敷き詰めて焼くバーベキュー。チベット周辺のソウルフード(ただし、ごく最近になって急速に広がった風習のようです)ともいうべきメニューです。

この辺りは、日本人に優しい人が多い土地柄です。筆者にも例外ではなく、宿の主人は「久しぶりに来てくれたんだから、宿代も食事代もいらないよ」と言います。さすがにそうもいかないので、お礼として100元(約1700円)を受け取ってもらいましたが、部屋も食事もその額をはるかに上回るクオリティでした。

しかしその翌朝、思わぬ「罠」が待ち受けていたのです。

筆者は朝の7時に起き、身支度を始めました。前の晩、「朝8時にバスが来るから、それに乗れば幸福村へ行ける」と言い含められていたからです。

停留所は前日に乗ってきたバス(と別の場所で、宿からどのくらいかかるのかわかりません。乗り遅れると困るので、7時半頃になって宿の人に尋ねてみました。すると、驚くべき答えが…

「バスならさっき出たよ! 朝飯食わなきゃいけないんだから、慌てなさんな」

えっ!? じゃあ次のバスは?

「今日はもうないよ!」

そんなバカな! あんたが昨日「明日の朝8時のバスに乗れ」と言ったんじゃないか! と言いたいところですが、ぐっと我慢。

「包車(ハイヤー)かタクシー呼ぶから、安心してゆっくり朝ごはんを食べなさい」

中国においては、どんなに大切な仕事よりも、朝ごはんが大事なのである。などと感心していたら、主人は早速タクシー会社に電話して価格交渉まで始めているではないですか。

「100元(約1700円)でオッケーと言ってるよ。安いよ!」

取材費を切り詰めている筆者にとっては、決して安い金額ではありません。それに、バスなら10元か20元で行けるのに、なんで100元のタクシーに乗らねばならないのか…。そもそも、さすがにバスが一本もないということはないはず。地方の農村なのだから、乗り合いバスくらいあるでしょう。

しかし、宿の主人にそう言っても「心配するな」と言って全く取り合いません。そうこうするうちにタクシーがやってきて、朝飯を食べる筆者の横で待ち始めました。仕方がないので、100元支払って車に乗り込みます。

タクシーが走り出すと、案の定、村営の乗り合いバスが何台も追い越していきます。やっぱりちゃんとあるじゃないか…。