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『君の名は。』が現実に?隕石落下で湧く中国の秘境シャングリラを歩く

おそらく世界初の現地ルポ
青山 潤三 プロフィール

しかし驚くべきことに、わずか3年弱で街は大火の前と同レベルに復興、「古城」にいたってはむしろ以前よりも精巧に再現されているのです。少なくとも観光客レベルでは、この古めかしい城が、急ピッチで再建されたものだとは判別できないでしょう。

独克宗古城とその麓の広場
再建された観光エリア。欧米人観光客の姿も

聞き込みをしてみたものの…

食事がてら原稿を書くために、市内の中国フライドチキン店「徳克士(ディコス)」に立ち寄りました。近年中国で急成長しているディコスは、お店もマクドナルドやケンタッキー・フライドチキンより広くて活気があり、ハンバーガーなどのメニューも豊富です。ただ、どれもけっこう高額で、カレーライスは30元(およそ500円)。中国奥地といえども、食べ物の値段はいまや日本とそんなに変わりません。

その後、街で早速数人に聞き込みをしてみたものの、隕石の正確な落下地点については判然としません。情報が錯綜しているらしく、答えようとしない人も少なくありませんでした。見慣れぬ外国人(雲南省に日本人はそう多くない)に警戒しているのもあるでしょうが、もしかすると、すでに当局が規制を始めているのかもしれません。

事前に調べた中には、隕石の破片を手に入れて一獲千金を実現しようと、中国全土から観光客が押し寄せているという情報もありました。しかし少なくとも落下から2週間が経ったこの時点では、そのような噂もほとんど聞かれなくなっていたようです。

シャングリラ市街の遠景

翌朝、雨の中をバスに1時間半ほど揺られ、まずは「シャングリラ大峡谷」を含む国立自然公園「巴拉格宗(バラゲゾン)国家風景区」に向かいます。市内からの交通手段は事実上ツアーバスしかないので、生まれて初めてツアーバスに乗車しました。

 

巴拉格宗国家風景区は「中国版グランドキャニオン」というと大げさですが、断崖絶壁に囲まれた景観はなかなかの見ものです。公園入口のターミナル周辺には、チベット風の建造物がひしめきあっています。中国政府はここを一大観光地にしようと、着々とインフラを整えつつあるようですが、それにしては大型観光バス以外の観光客はほとんどおらず、少し心配になります。

巴拉格宗国家公園の入り口。ツアーバスがちらほら

食堂のチベット人従業員に、隕石落下地点はこのあたりなのかどうか聞いてみました。

「そうだよ、このあたりらしいよ。でも、どこに落ちたのかは知らないね」

おおよその方角でもいいので、分かる範囲で教えてくれないかと、しつこく訊ねたのですが、あからさまに嫌がっています。「山の中のどこかじゃないか」とか言って、適当にその辺を指差すだけ。

質問を変えます。隕石のことを調べに来た人はいる?

「来たよ。10人か、20人くらいだったかな」

そう言うと、去っていってしまいました。

その後、園内回遊バスの運転手などにも尋ねてみたものの、無愛想に「知らない」と言うばかり。

園内からは険しい断崖が望める
大陸ならではの景観

天安門事件が起きた1989年の初夏、筆者は四川省成都の大学に留学していました。当時は街のあちこちで焼き討ちが起き、ホテルは破壊され、車という車はひっくり返されて、それはもう大変な混乱でした。死傷者も少なからず出ていたはずですが、テレビは一日中、民主化運動に関与した学生の指名手配映像を流し続けていました。

しかし最も怖かったのは、そのような混乱がすぐ近くで繰り広げられていたにも関わらず、成都市民が誰ひとりそれを話題にせず、かたく口をつぐんでいたことでした。

中国の一般市民が国家権力に対して抱く恐怖心は、半端なものではありません。我が身に災難が振りかからぬよう、少しでも不都合な話題には口を閉ざす。事実、今回も「隕石の破片を見つけた」と言い、石ころを高額で売ろうとする人が出ていることもあって、雲南省では「隕石探索禁止令」が出されたそうです。

一人だけ「隕石の写真だよ」とスマホを見せてくれた人が。でも、これは明らかにニセモノ

もう一つ、答えてくれない理由があるとすれば、それは中国人の「面倒なことを徹底して避けようとする」国民性でしょう。後で中国人の知人にこのことを話したら、「そりゃあ当然ですよ。中国人が報酬もなしに、面倒な質問にいちいち答える訳がない」と一刀両断されてしまいました。