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コメディアンが「同性愛」をネタにする権利、について思うこと

フジテレビは何に対して謝罪したのか?

「コメディ」とは何か

不意に地上波に現れて物議を醸した「保毛尾田保毛男」の一件は、視聴者が怒り、テレビ局が謝る一対の身振りが演じられ、なにやら帰結点に達した趣を見せている。

去る9月28日放映の「とんねるずのみなさんのおかげでした 30周年記念スペシャル」において、お笑い芸人の石橋貴明が、90年代に人気を博したキャラクター「保毛尾田保毛男」を約30年ぶりに演じたところ、同性愛者差別だという批判を招き、テレビ局の社長が謝罪するに至った。

この件を巡っては、同性愛について、芸能界について、テレビ放送について、すでに様々なことが論じられた。一方で、コメディについて――特定の時代と場所に属する「お笑い」に限らず、より汎用的な「コメディ」について――となると、まるで真顔で論じるには及ばないかのように、饒舌さが誘発されずにいる。

しかし、テレビ局の公式サイトに掲載され、現時点で唯一確認できる一文、すなわち、「ご覧になった方に不快な念をお持ちになった方がいるなら、これはテレビ局としては大変遺憾なことで、謝罪をしなくてはいけないと思っている」という記述が、あるいは作為的に留める曖昧さを不信に思う時、我々は、やはりコメディについて考えずにはいられまい。

Louis C.K.(Saturday Night Live - Season 42)〔PHOTO〕gettyimages

コメディを用いて表象行為に臨む理由

頭韻法さえ駆使した「保毛尾田保毛男」の絶妙にくだらない名前が、約30年ぶりに地上波を賑わせる約半年前、アメリカのコメディアン、ルイ・C.K.によるスタンドアップ・コメディの新作『ルイ・C.K.:2017』が、ネットフリックスで配信された。

近年のアメリカで抜群の人気を誇るコメディアンは、70分のパフォーマンスのうち最も盛り上がる最後の20分間を、同性愛の題材に費やしている。

「僕は今年で49歳だが、まだ自分がよく分からない。未だに混乱している。この歳にして芽生える新しい感覚というのが、どうも好きじゃない。自分が何を好きで何が嫌いか知って、好きなことをして死にたいからね。例えば、僕はある映画と愛憎関係にある。『マジック・マイク』という映画、知ってる?」

 

日本ではいささかも話題にならなかったが、チャニング・テイタムとマシュー・マコノヒーが男性ストリッパーを演じる『マジック・マイク』(2012年)は、北米で約1億1400万ドルを売り上げる大ヒットを記録し、2015年の続編も同様にヒットした。

ルイ・C.K.はマイクを握りしめてステージを往来し、テイタムとマコノヒーが脱ぎながら肉体美を晒していく様子を、観客に向かって描写していく。

「この映画がテレビでやってると必ず観て、僕は度胸試しをするんだ・・・ストリップのシーンが始まると、ちょっと変な感覚に襲われて、顔が熱くなってくる。最初は、理由もなく反抗的になったりしてね・・・だけどじつはお気に入りのシーンがあって・・・」

異性愛者に間違いないルイ・C.K.は、しかし明らかに魅力的なテイタムとマコノヒーのストリップを鑑賞しながら、自分のうちに芽生えかねない同性に対する新しい感情と、ひとり格闘する中年男の様子を詳細に描写していく。そして『マジック・マイク』のネタを皮切りに、同性愛という題材について20分間喋り倒し、観客の笑いを誘うのだ。

ほかにいくらでも存在する芸術形式を差し置いて、コメディを用いて表象行為に臨む理由はいったい何か?