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人の寿命はカネ次第…⁉ニッポンの「健康格差」深刻な実態

命にかかわる衝撃の事実が明らかに
NHKスペシャル取材班

2015年に放送を開始したNHKスペシャルの大型シリーズ「私たちのこれから」は、人口減少社会に突入した日本社会に焦点をあて、私たちに何が起きるのか、それをどう乗り切っていけばよいのかについて、官僚・専門家・視聴者の皆さんとともに考える討論形式で番組を制作してきた。

およそ2年半に及んだ番組で取り上げてきたテーマは、年金・雇用・介護・少子化・不寛容社会・長時間労働・認知症・子どもたちの未来など多岐にわたったが、この「健康格差」は、最も視聴者の反響が大きいテーマだった。それは「健康格差」が、医療・福祉・雇用・労働・教育・子育てなど、日本が抱える様々な問題の根本に結びつくからではないだろうか。

 

考えてみれば、健康は人が生きる上での基盤であるから当然とも思えるのだが、逆に言えば、その健康が脅かされるということは、まさに日本社会を下支えする基盤が揺らいでいる証であり、恐るべき問題が私たち一人一人の身にせまっていることでもある。

また同時に「健康格差」問題の解決には、乗り越えなければならない大きな壁があることもわかってきた。それは「健康は自己管理するもの」「健康は自己責任で解決すべき」という根強い風潮だ。この流れを変えるために、従来とは異なるアプローチで打開策に取り組む海外の事例や国内の自治体の取り組みも取材した。

「健康格差」は、一見「自らの健康管理を怠ったゆえの自業自得」と捉えられることが少なくない。しかし、これは一部の人たちが不利益を被るという単純な問題ではない。

「健康格差」を放置すれば、医療費や介護費の増大を招くだけでなく、破綻寸前にあると揶揄される日本の国家財政をさらに圧迫する。その結果、社会保障制度の切り下げや、保険料の値上げや増税という形で、国民全員が負担を強いられることになる。

いわゆる「自己責任論」で切り捨てても、結局は社会全体の問題として「しっぺ返し」のような形で、国民一人一人にのしかかってくる問題なのだ。

また、誰もが、生涯ずっと健康でいられるわけではない。健康を著しく損なえば、必然的に仕事を辞めざるを得ないこともある。職を失い、経済的に困窮したときは、生活保護が必要になる。事実、高齢者の貧困世帯の増加にともない、生活保護の受給者は、年々増加の一途を辿っている。生活保護を開始する理由の多くは「疾病」である。

今後、働けなくなった高齢者にくわえて、もし健康を損なった現役世代がこれに加わったらどうなるか。専門家の中には「20年後、生活保護率が急上昇し深刻な社会問題として火を噴く」と危惧する人もいる。

健康は、私たち一人一人だけでなく、日本の未来を左右しかねない重大な問題だ。「人口減少」という局面において、世界に例を見ない急速な「超高齢化」と、「超少子化」と呼ばれるほどに深刻な少子化問題、そして2015年から2040年までの25年間で1750万人も減ると推計される生産年齢人口、つまり「労働人口の減少」という日本の未来をめぐる4つの問題に直面する中で、国民の健康が脅かされるという事態は、人間が最低限度の生活ができる社会の「底」がついに抜けるといっても過言ではないほどの問題である。
  
本書を通じて、「健康格差」が私たち個人だけではなく、私たちが生きる社会にとって大きな問題であることを感じていただき、どうすればこの問題を解決できるのかを一緒に探求していただけたら幸いである。