週刊現代 アメリカ 北朝鮮

米元国防次官補ジョセフ・ナイの警告「金正恩を舐めてはいけない」

米政府の後悔を明かす
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'94年、私の苦い経験

北朝鮮問題に関するかぎり、トランプと安倍首相の間に、大した対立はなく、首脳会談は和やかに行われます。トランプは就任前は日本に批判的な言動が多かったのですが、今はそうではない。

安倍首相は、トランプとの首脳会談を経て、日米同盟が強固であることを北朝鮮に見せつけることが非常に重要です。うまくやらないと、金正恩の戦略に簡単にやられてしまう可能性がある。

安倍首相とは、私が教鞭をとっているハーバード大学でも話しましたし、来日時にも何度も会って意見交換をしています。

'07年の第1次政権時代の不人気を考えると、安倍政権が史上最長の政権になりつつあることに感慨を覚えます。10月の総選挙で自民党が圧勝したのは、日本人が安定を望んでいることの表れでしょう。日米同盟の安定にもつながり、日米両国にとって、プラスに働きます。

ドナルド・トランプ 安倍晋三Photo by GettyImages

一方、トランプと韓国の文在寅大統領は、良好な関係とはいえません。文在寅が北朝鮮との関係を改善させようと動いたことに対して、トランプは時折批判さえしています。

しかし北朝鮮の核開発を止めさせたい、という一点では韓国も日本と変わりませんから、根本的な部分では一致するはずです。

しかし、習近平との間となると別です。トランプは今年の4月6日と7日、アメリカ・フロリダ州の別荘「マール・ア・ラーゴ」で習近平と会談を行いました。

トランプは習近平に対し、「北朝鮮の核問題について、より強硬な態度をとってくれるのであれば、米国の貿易赤字削減については譲歩する」という提案を行いました。

確かにその後、中国は北朝鮮への態度を硬化しましたが、核実験を中止させるほどの影響力は持たなかった。

だから、今回のトランプ・習会談では、北朝鮮に対する態度をめぐって、激しい議論になる可能性があります。

 

さて、こうした外交努力が無となった場合――北朝鮮のたび重なる核実験とミサイル発射実験に対して、アメリカは軍事作戦をとるでしょうか。

トランプの選択肢の中に、先制攻撃が入っていることは間違いない。ただし、それは非常に難しいオプションです。将来の損失を未然に防ぐ目的の「予防戦争」は、北朝鮮に対して挑むには、失われる命があまりにも多く、リスクが高い。

なぜなら北朝鮮には、核兵器を抜きにしても、そもそも報復攻撃能力があるからです。ところが米軍には、北朝鮮の核施設やすべての通常兵器を、一撃で破壊する能力はありません。

そこで、ピンポイント攻撃の主張が出てきます。ミサイル発射台や核再処理工場、ウラン濃縮施設といった特定の場所への攻撃です。もし、このピンポイント攻撃をするなら、北朝鮮の応酬はどのようなものになるでしょうか。

'94年、米国は、北朝鮮がプルトニウムから核兵器を製造するのを阻止するため、寧辺の核施設に対して先制攻撃を行うことを検討します。私が国防次官補を務め、国際安全保障を担当していた時期です。

しかし、北朝鮮にはDMZ(非武装地帯)に、約1万5000両の大砲と多連式ロケット砲が配備されています。ここから北朝鮮が韓国のソウルを攻撃する可能性がありました。

もし攻撃されたらソウルは火の海となり、壊滅してしまう。非常に高い代償であるという結論に達し、攻撃を断念しました。

つまり、北朝鮮は、核兵器がなくても、韓国や日本、さらにはアメリカと対峙してきたのです。通常兵器で充分に戦う能力があるからです。そしてこの状況は、現在まで変わっていない。

ICBM(大陸間弾道ミサイル)が発射準備されていることがわかれば、そこに先制攻撃をすればいいという意見もありますが、移動発射台にミサイルが隠されていれば、発射前に破壊できるかどうかは確定できません。

ミサイル発射前に、ミサイルシステムにサイバー攻撃を仕掛けることは、一つの可能性としてあります。アメリカは実際イランの核施設のウラン濃縮用遠心分離機を破壊するサイバー攻撃を成功させています。

核戦争のリスクは?

とはいえ、北朝鮮を牽制するためだけに軍事力を限定的に使用すると、かえってリスクが大きい。エスカレートし、全面戦争になってしまう可能性があるからです。

アメリカ側から戦争を始める可能性は低いと思いますが、北朝鮮が日本やグアム、アメリカ本土を狙ってミサイルを発射すれば、アメリカは軍事攻撃を辞さないでしょう。