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「怖い絵」展開催までの悪戦苦闘

「プロジェクトX」ばりの裏話を明かす
中野 京子 プロフィール

エロスて何や、走れメロスのことか?

なかなか決まらなかった東京の美術館もようやく決定した。ジェーンはたいそう上背があって大きな壁が必要なので、寸法も測り、全て大丈夫と日程も確定し、契約も締結という時になって……こんなこともあるのかという、間抜けな事態が発生。壁には飾れても、入り口からの搬入通路の天井が低くて通れないということがわかったのだ!

全てやり直し。また藤本さんの大奮闘。

もはや東京展のあとで兵庫県美という順番には間に合わなくなっていたので、順を逆にして、上野の森美術館での秋からの開催が、改めて決定したのだった。やれやれ。だがこの件に関しては、わたしとしては上野でむしろ良かったと思っている。というより、「怖い絵」展の話があった時真っ先に頭に浮かんだのは、上野に「怖い絵」という看板が立っているイメージだったのだ。終わりよければ全て良し。

しかしまだ終わっていなかった。兵庫県美での開催日数日前、緊急メールがきて曰く、「ロンドンからアムステルダムへの輸送途中、事故でトラックが引き返した」。

ポール・ドラローシュ 《レディ・ジェーン・グレイの処刑》 1833年 油彩・カンヴァス ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵 Paul Delaroche, The Execution of Lady Jane Grey, © The National Gallery, London. Bequeathed by the Second Lord Cheylesmore, 1902

まさかジェーンに何かあったのではと気を揉んだが、単に道路渋滞に巻き込まれて予定の飛行機に間に合わなかったということと判明。ほっとした。2日遅れで到着。もちろんこの2日のロスは小さくなかった。展示現場は深夜作業となり、すでにストレスで5キロも太っていた岡本さんは、足にできていたマメがつぶれて血まみれに……。車椅子で働いた。

開催後も実にいろんなことが起きている。

音声ガイド機器が足りなくなって急遽倍増させたり、グッズの「黒い恋人」やサロメのマグカップが品切れになって補充に大慌てしたり、1時間も並んだのだから閉館時間を過ぎてももっと見たいと要求する人(気持ちはすごくわかります)の対応に追われたり、小学生にヌードを見せてけしからんとクレームがきたり。

最後のに関連して、ちょっと可笑しいツィートを読んだ。音声は全て私が書き下ろしたのだが(朗読はすてきな声の吉田羊さん)、まさか小学生が音声ガイドを聴くことまで想定していなかったため、「エロス」だの「恍惚」だのという言葉も使ってある。すると小さな子が会場で、「お母さん、エロスて何や、走れメロスのことか?」と聞いていたのだそうだ。お母さんの返事が知りたかった。

それもこれも来場者が多いことの嬉しい悲鳴ではある。兵庫では51日という短期間、さらに最終の3日間は台風の直撃にみまわれながらも27万人以上の方が見てくださり、この美術館歴代3位(一日あたり入場者数では歴代2位)の記録になった。

 

現在開催中の上野の森美術館でも、初日から3週間目で入場者数10万突破セレモニーを行った。連日の賑わいはほんとうに嬉しく、ありがたく、寒い戸外で並んでくださる方ひとりひとりにお礼を言いたくなる。本館が狭いため、ゆったり見られないのも申し訳ない。

それでも自分の心に刺さる作品は、きっと周りの喧騒を忘れさせるほどに迫ってくることだろう。そんな体験をした人が多かったからこそ、口コミでここまで話題が広がっていると思う。