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核実験を繰りかえすあの国に、Kちゃんは住んでいる。

最相葉月が描く北朝鮮の友、中国朝鮮族の友

罪を告白します。私は、友だちのおもちゃを盗みました。赤と黒と白と黄色のピースを組み立てると樽のかたちになる小さなパズルです。近所の子どもたちの間ではやっていました。お菓子のおまけだったかもしれません。

ある日、同じマンションのKちゃんの家に遊びに行くと、テーブルの上にそのパズルが置いてありました。彼女がトイレに行ったすきに、ふと、手が伸びました。そっとポケットに入れ、何も言わずに急いで家に帰りました。心臓がドキドキしました。

数日後、彼女が家に遊びに来ました。父の灰皿の横にパズルが転がっているのを見つけると、あれ、それ、どうしたん、と訊ねてきました。うちのんなくなったんやけど知らん、ともいいました。うまく答えられずに口をもぐもぐさせていると、突然頬に強い衝撃が走り、からだが宙に浮いて椅子から転げ落ちました。

「盗んだんか。Kちゃんにあやまれ」

父でした。そのまま引きずられて外に出され、しばらく家に入ることを許されませんでした。泣いていたのでわかりませんが、父のすごい剣幕に恐れをなしたのでしょう。気がつくと彼女の姿はありませんでした。

私が自分の罪を意識した最初の記憶です。4歳でした。彼女が北朝鮮に帰国したのを知るのは、ずいぶんあとのことです――。

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北朝鮮関連の報道に接するたび、私はこの出来事を繰り返し思い出し、胸が締め付けられます。パレードをする人々の中に、金主席を称える市民の中に、彼女がいる。日本人を拉致し、ミサイルを発射し、核実験を繰り返す国に、彼女が住んでいる。私にとり、北朝鮮は彼女であり、北朝鮮と彼女を切り離して考えることはできません。北朝鮮はまだ、あの日の少女の顔をしています。

『絶対音感』『青いバラ』などの著書がある最相葉月さんは、2015年に『ナグネ 中国朝鮮族の友と日本』(岩波新書)というノンフィクションを刊行している。そこからは、20年近く親交を深めている中国朝鮮族の友人との関係を通し、新しい角度から見た「北朝鮮」「韓国」「中国」の姿が浮かび上がってくる。最相さんが今の情勢を見て改めて描く<私>の世界――。

電車で出会い友人に

別の話をします。私には、自分の娘のように思っている中国人の友だちがいます。彼女、恩恵とは駅のホームで電車の行き先を聞かれたことがきっかけで親しくなりました。

 

年は19。来日して数か月というのに日本語を話しました。中学と高校で必修科目だったからだそうです。中国には義務教育で日本語を教える学校があるのかと驚きました。もっと驚いたのは、彼女が祖父母の代からのクリスチャンであることです。実家は政府非公認の地下教会で、物心がついたときから彼女には神様がいました。

アルバイトを探しているというので、それならばと週に一回、資料整理に来てもらうことにしました。日本には頼る人がいないというので、アパートを借りたり就職したりするときの身元引受人にもなりました。

中国事情に詳しい同業の知人から、「身元のわからない中国人をよく信頼できるなあ。ぼくの周りにはだまされた人が多いから、注意したほうがいいよ」といわれました。18年前のことです。