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高齢化進む「ハンセン病」療養所。その中にある保育園をご存知ですか

宮崎駿監督も協力
崎山 敏也 プロフィール
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全生園が設立された1909年ごろ、療養所に入ってくる患者の7割近くは20歳~40歳の若者で、未成年者も1割を占めていました。しかし戦後、新薬の誕生などによって、新しい発病者・入所者が急速に減っていったことから、高齢化が進んでゆきました。

戦前から戦後すぐまでは、子供の患者の教育は体系だった形では行なわれておらず、一般社会にいた時に教師だった患者が先生役をつとめて教えていました。

戦後、ハンセン病が治る病気になると、療養所に入ってから進学や社会復帰する時のことを考え、療養所内に学校が設けられました。全生園にも1953年、東村山町立の小中学校の分教室という形で「全生学園」ができました(なお、高校は全国で唯一、岡山県の長島愛生園に邑久高校定時制過程新良田教室が設置)。

しかしその後、全生園では1975年に小学校の分教室が閉鎖され、79年には最後の中学生2名が岡山の高校へ進学するため長島愛生園に移り、全生学園はなくなりました。1953年の認可以降、66名が就学し、そのほとんどが社会復帰していったとみられています。

強制隔離を雄弁に物語るこうした建造物や遺跡の「実物」、そして豊かな森が将来も残されるのか、実は決まっていません。これらが跡形もなくなってしまっては、ハンセン病問題を次代に伝えることはできないのではないかと、入所者は特に危機感を抱いています。

 

ここで生きたことの証を

私が「実物」の力を感じたのは、昨年「水俣病公式確認から60年」を取材した時のことです。

取材で訪れた「水俣病センター相思社」の歴史考証館(熊本県水俣市)は実物展示を大切にしています。原因企業チッソの付属病院が作った、「実験」で工場廃液を与えられ、水俣病を発病した猫を飼うための実験小屋。汚染された魚を閉じ込めるため、水俣湾に張り巡らされた仕切り網。「怨」と染め抜かれた黒い旗。水俣湾の水銀ヘドローー。水俣病事件の歴史が刻み込まれているものばかりです。

捨てられようとしていたのを拾ってきたものがほとんどだそうですが、相思社理事の永野三智さんは「私たちが言葉で伝えることとは全く質の違う語りが、本当に実物展示にはあります。圧倒されます」と話していました。

ハンセン病問題も同じかもしれません。全生園の自治会は2002年から自然と建物、史跡を保存し、歴史や人権の大切さを伝え、地域の人に豊かな自然を楽しんでもらう「人権の森」として、療養所全体をいつまでも残す構想を掲げています。前述した山吹舎の復元もその一環です。

現在は、樹木の管理や清掃作業は高齢化した入所者だけではできないので、東村山市が募集したボランティアが参加するなど、地元自治体も協力しています。しかし、土地は全て国有地。財政的なこともあるでしょうが、国は療養所の将来について何も明かしません。

訴訟の原告、弁護士、入所者自治会からなる統一交渉団と厚生労働省は毎年、ハンセン病問題対策協議会を開いています。しかし、そこで示されているのは、

「各療養所において策定された将来構想の実現については、地方公共団体の積極的な関与が必要であり、引き続き地方公共団体と連携を図り、将来構想の実現に向けた支援・協力を依頼していく」

「療養所の永続化に向けての意見交換会を着実に進めていく」

という抽象的な表現にとどまり、なんら具体的なものではありません。

園の周囲は都市化・宅地化が進んでいます。土地が切り売りされるのでは、という懸念は消えません。資料館や納骨堂が残されても、回復者が生活していた痕跡も含め、全て更地になってしまえば、記憶のよすがを奪われたも同然です。

現在、全国の療養所では、全生園の旧図書館をはじめ6施設の補修工事が行われており、この11月2日には、さらに老朽化が進んでいる全国の6施設が追加で緊急補修工事を行なうことが決まりました。建造物の保存は遅々としてではありますが、進み続けています。

しかし、納骨堂、資料館、建造物を一箇所に移転させてまとめてしまうことも可能です。そうすると、入所者が心を込めて植えた森は失われ、「ここがかつて一つの街であり、多くの入所者が生活していた」ことを実感することはできなくなります。

家族訴訟、療養所の介護、医療体制の充実、偏見、差別をなくす取り組みと共に、国が自ら誤った政策を行なった「負の歴史」を物語る「実物」として、療養所は地域に開放される形で残るべきでしょう。国は入所者自治会や東村山市が賛同する「人権の森」構想をどう受け止めるのか、問われています。

崎山敏也(さきやま・としや)/1964年生まれ。TBSラジオ放送記者。「荒川強啓 デイ・キャッチ!」(月~金15時30分-17時46分)、「荻上チキ・Session-22」(月~金22時-23時55分)などニュース番組を中心に出演。ハンセン病を始め科学・医学と行政の関わり、原発、沖縄、公害問題など幅広く取材を行う。アイドルにも造詣が深い。

 
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