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どうした孫社長⁉「米携帯会社統合とん挫」で浮かぶ、ある不安

目的を見失ってやしないか

生煮えの情報をなぜ広言したのか

すったもんだの末、ソフトバンクの子会社で米携帯電話4位のスプリントを、ドイツテレコム傘下の同3位Tモバイルと合併させる構想がとん挫した。ソフトバンクグループの孫正義社長が、昨日(11月6日)開いた7~9月期決算説明会で、両社の統合交渉打ち切りを明言した。

その理由について、孫社長は「今後進展するとみられるIoT(モノのインターネット)革命のなかで、(米国の)通信インフラがソフトバンクグループの経営の根幹になる」「(スプリントの)経営権の放棄は受け入れられなかった」と説明したうえで、「いまは5年、10年後を見据えた決断ができたと晴れ晴れした気持ちだ」と感想を語った。

ソフトバンクの孫正義社長決算説明会でスプリントの可能性を強調する孫正義社長 photo by gettyimages

スプリントは、200億ドル超の巨費を投じたソフトバンクによる買収から4年あまりが経ったいまも、最終赤字を抜け出せていない。収益面で足を引っ張る「ソフトバンクのお荷物」会社であるだけでなく、通信ネットワークの整備競争でもライバル各社の後塵を拝しており、今後投資が嵩んで“カネ食い虫”化するとみられている。

こうした事実があるため、専門家のあいだでは、今回の孫発言を鵜呑みにするのは少数派だ。スプリントの処分に時間がかかれば、経営全般の弱みになりかねない。そこで、間髪を置かずに別の相手とスプリントの売却交渉に着手し、議論を有利に進める狙いから、あえて「強気の発言、あるいはブラフを使ったのではないか」(ライバルの大手通信会社幹部)といった見方がもっぱらである。

また、孫社長は5月と8月の決算説明会の席で、「(Tモバイルは合併相手として)最有力候補」「複数の事業統合の相手先を想定して検討、交渉している。意思決定の時期は近い」などと発言。そのため、10月下旬にかけて、日米の大手メディアによる報道合戦が起こり、報道のたびに株価が乱高下する事態が生じている。

インサイダー情報に該当しかねない重要な経営情報であるにもかかわらず、なぜ孫社長は生煮えの段階で事業統合を広言したのか。その後の情報管理のあり方も含めて、市場の番人たちの関心を集める可能性もありそうだ。

 

孫正義は「飽くなき事業欲のかたまり」

毀誉褒貶(きよほうへん)はあるものの、孫社長は間違いなく日本を代表する経営者の1人である。数え切れないほどのM&A(企業の合併・買収)をくり返し、ソフトバンクをPCソフト卸売り業者から、NTT(昨年度売上高11兆3900億円)に比肩するほどの大手通信事業者に一代で育て上げた(同8兆9000億円)。ボーダフォン・ジャパン、米スプリント、英アームと、経営が危うくなると懸念されるほど大型の買収案件も、これまでなんとか乗り切ってきた。

筆者が初めて孫社長に会ったのは、いまから20年以上前。ソフトバンクがまだ中央区の隅田川沿いに本社を置き、出版業を主力としていた時代のことだ。インターネット分野への進出を目論んでいた若き孫氏の社長室は、段ボール箱がいたるところに散乱し、まるで倉庫のようだった。

同氏に問われて、取材中だった電気通信分野の当時の市場独占問題について説明したところ、孫社長はいきなり筆者の両手を握って「同志の匂いがする」と言い放った。いまでも昨日のことのように鮮明に覚えている。「人たらし」と言われる人は、こんな演出を造作もなくやるのかと感心したものだ。